黒猫 2020-11-19 01:55:48 |
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( 静かな街中に響く足音。落ち着いた様子の青年がたんたんと足を進めた。死臭を運ぶ冷たい風によって青年の白髪がなびく。
道路には血と肉があちこちに転げ落ちている。その景色は前を見ても後ろを見ても横を見ても同じ。逃れることはできない悲惨な光景だった )
「 殺害された人数は560人、いやもっとか。
かわいそうになあ。全部オマエのせいでみんな死んじまう」
( 立ち止まった。ドラマツルギーとちょうど対面する構図で。白髪の青年が虚な瞳をその異形の生物に向けた )
「 オマエは本体じゃないな? 」
「 ・・・ 」
( 理不尽を撒き散らしたその生物は、停止した機械のように一ミリも動かず沈黙。その横には怯えた生存者たちがいて向こうに逃げるよう視線で伝えた。
ドラマツルギーは不動のまま、白髪の青年が「 聞いてんのかコラ 」とか 「 その仮面きもいぞー 」と罵っても無反応だった。ただし、ある質問には『いつも通り』、答える )
「 オマエらってどうしてこんなひどいことばっかするんだ? 」
「 それは人間たちが我々と我々の行為を無意識に望み欲しているからだ。我々は人間たちの欲望の総意。ゆえに我々に、個に対する責任を求めるのは、人間の欲望、言うならば社会に対して個の責任を追及する奇行となんら変わりはない 」
「 やっぱりこの質問には答えるんだよな。しかもいつもと変わんねえ胸糞悪いこと言う 」
( 青年は懐からマグナムを取り出し、「まぁいいや、死 ね よ ボ ケ カ ス」という言葉と共に引き金を引く。
銃口から飛び出した金の弾丸。それは確かにドラマツルギーの頭へ直進する。
ーーしかし、弾丸はその向こうの標識をバチンと撃ち抜いた。ドラマツルギーの姿がない。奴は一瞬にしてどこかへ消えた。
辺りをぐるりと見渡す。
ビル壁面のモニターに映るニュース。ライトアップされた広告看板。骨格の露出した建設途中のビルの数々。いつもは待ち合わせで人が溢れているはずの駅前。キャラクターの描かれた特徴的な自販機。無人のカフェ。
様々な街の要素が目に映るも奴の姿は見えない )
「 ・・・人間は喪失と悲劇を欲している 」
( 声のした後ろに振り向くと、すぐに白髪の青年の表情が歪んだ )
「 か…ァッッ 」
( 突然の衝撃に苦い胃液がこみ上げる。腹部に打ち込まれつつある奴の拳。マグナムが地面に溢れる。青年の体はくの字に曲がり、地面から靴底がどんどん浮いてゆく )
「 アナタは虐げられ続けなさい 」
( その言葉を境に、奴に与えられた非人間的なパンチ力に従って、街の中空を吹っ飛ぶ。ボールにされた気分だ。息を吸う暇もなくタクシーの窓ガラスを突き破って、車内の後部座席に至った )
「 いってぇぇ… 」
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