匿名さん 2020-11-18 13:04:59 |
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>Nora
──、うん。
(そう何度も自身の名前を繰り返されることなんて無いから、少し気恥ずかしいような、慣れないような不思議な感覚に包み込まれる。でもやはり、こうして名前を呼んでもらえることで、自分がここにいるんだ、ということを実感できる。ほっこり、じわじわとしたそんな感情に浸りつつ、彼女の言葉に耳を傾けては頷いた。
自身の目の前の皿が彼女の手に依って運ばれていくのを視線で追いながら、椅子を引いてゆっくりと立ち上がる。ふぅ、と一つ息を吐き、満腹になったお腹をさする頃にはもう彼女はこの部屋から居なくなっており。広い部屋に自分一人。さてこれから何をしよう……と思考を巡らせながら、彼女の言葉を脳内で思い返してみる。
──自由に、か。まだ日が沈むまではかなりの時間があるだろうから、大抵の事は出来てしまいそう。沢山時間があると言えば路上暮らししていた時と同じなのだが、当時していた事と言えば、ただ道の端で震えながら眠るだけ。働く場所もお金も何もないのに無慈悲に空腹だけはやって来るのだ。眠りに落ちれば消費する体力も少ないので、凍えて丸まっているより余程生き残れる──彼女に拾われたあの雪の降る日だけは、あまりの寒さに眠るどころでは無かったのだが──。
しかし流石に、拾われてこんなに豪華な場所にいるというのに此処でも一眠り、なんて勿体無さすぎる。折角の自由時間、そんな無駄なことはせず有意義に過ごしたいもの。ここは彼女の言う通り──一度このお屋敷の中を見て回るのはどうだろう。こんなに広いんだもの、そう簡単には回り終わらないことは安易に想像できる。それに、少しくらいこの屋敷の構造を知っていた方が今後便利だろうから。
そうと決めれば彼女の出ていった扉を抜け、廊下を歩いてゆく。順に部屋を覗いていくが、服が沢山あったり、色々な家具が詰め込まれていたりする中、使われてない部屋も幾つかあったり。その一つ一つを興味あり気に観察しながらまた次の部屋、と手を掛ける──と。
そこには沢山の本棚。何処を見渡しても本、本、本。覗くだけ……のつもりだったのだが、その夢のような空間に思わず足を踏み入れて。試しに一冊手に取ってみる。そのまま表紙を開き、数ページペラペラと捲って読んでみる。これは……吸血鬼の生態について書かれているのだろうか。日光が苦手だとかいう基本的なものから、意外な弱点なんてものも。これが彼女に当てはまるのかは分からないが、内容は十分面白いものだった。これでまた少し彼女の事を知ることが出来るかもしれない。いつの間にか本棚の側に座り込み夢中になって読んでいて。)
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