匿名さん 2020-11-18 13:04:59 |
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>Nora
…………分かった
(最後の一口位の大きさとなったパンを口に入れ、咀嚼していたのを飲み込んでは彼女の言葉に頷く。まだ日は昇ったばかり、日が沈むまでにはまだ十分な時間がある。雪は降っておらず、昨日の悪天候が嘘のような快晴なのは、起きた際、窓越しに確認していた。やはり吸血鬼、日光は苦手なのだろうか。孤児に居た頃、読書が趣味だったせいもあり、吸血鬼を題材にした物語も幾つか読んでいた。そこに出ていた吸血鬼というのは、姿形や性別、性格なんてものもバラバラであったが、共通して日光が苦手だった気がする。他にも、十字架が苦手だったり大蒜が苦手だったり……、中には炎が弱点なんてものもあった。彼女が出掛ける時間を遅くに送らせるのもやはり日光が原因なのだろう。そう考えれば、昨日雪が降っていなければ、つまり太陽が隠れていなければ、自分が彼女と出会い、今こうして助けて貰うことは無かったかもしれない。こんな天候一つで運命が大きく変わってしまうとは。日常というのは奇跡の連続──、そんな言葉を耳にしたことがある。まさにその通り、改めてそう実感しては妙な納得も生まれる。
残り僅かとなったカプチーノを啜るため、カップを手に取って口まで持ってくると、くいっと顔をあげ残っていた液体を口内へと流し込む。その途中、再び目の前に座る彼女を見れば、小さくだがまた口が開かれた。そこから紡がれる言葉達が耳に届いてから数秒後、持っていた空となったカップを机に置くと、そっと口を開いて。
「“ノーラ”……、いい名前──。僕はロイズ。ロイズ=ヴェルディ。」
まずは彼女の口から発せられたその名前に、率直な感想が零れ。こうして名乗るのもどの位ぶりだろうか、自分の名前でありながら、普段呼ばれることも口にすることもない言葉。何処か懐かしくも感じるその響きをゆっくり声に出す。確かに、お互い名前も知らないのは不便に過ぎないだろう。ついさっき教えて貰ったばかりの名前を何度も脳内で反響させると、何故だか心がほっこり、じんわりと温かくなってきた。前述したように、孤児院ではずっと本ばかり読んでいたため、他の孤児との関わりは一切といっていいほど無く。何処にいても孤立していた自分にとって初めての友達──と言ってもいいのか分からないが、単なる顔見知り、知り合いではない特別な関係。ただ名前を言い合っただけなのに、またひとつ彼女のことを知れた、という嬉しさが確かに胸の奥に存在している。無意識だが小さく口角が上がっており。そのあたたかい気持ちのまま、御馳走様でした、と食事を終わらせ)
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