ビギナーさん 2020-11-09 08:35:35 |
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変装用の眼鏡とマスクを着けているから、バレないとは思うけど……ドキドキするなぁ。
意を決して店に入ると、店員さんが元気よく「いらっしゃいませー!」と迎えてくれた。
週末だからか客が多く、なかなか賑わっている。
絢世が若い男性店員に声をかけた。
「すみません、待ち合わせなんですけど」
「はい! あちらのお座敷ですね」
と彼が示した先には、木下さんと社長ともう一人誰かがいた。あの人が田村さんか。
俺たちより先に来ていたようだ。
俺と絢世が座敷席に近づくと、社長が徐に振り向いて、
「おぉ、来た来た。待ってたよ、二人とも」
「こんばんはー。社長、木下さん……と田村、さん?」
「はっはっは。初めまして、田村です。いやー、『Light』のお二人に会えるなんて夢みたいだ。よろしくね」
気さくに笑いかけながら、中年男性が『田村』と名乗った。優しそうな人でよかった。
「初めまして、マサキです! こちらこそよろしくお願いします!」
「……アヤセです。よろしくお願いします」
俺が一礼すると、絢世も後から頭を下げた。でも、なんとなく絢世の表情がいつもより固い気がした。
座敷席には木下さんと社長、向かいに田村さん、絢世、俺が座った。
「それでは全員揃ったので、かんぱーい!」
「乾杯!」
木下さんの号令で全員がグラスを掲げる。大人たちはビールだけど、俺と絢世は当然ジュースだ。
俺たちの飲み物も木下さんが事前に注文してくれていたらしい。木下さん、ありがとう。
「田村さん、うちの『Light』をどう思います?」
社長の問いに、田村さんはうーんと考え込む。
「そうですねぇ。今のキラキラした明るいイメージもいいですけどねー、ちょっと大人の色気もほしいと思いますよ。次の曲はセクシーな感じでいきましょう。いいよね、アヤセ君?」
「はぁ、僕としては路線変更は急すぎるかと。社長、どうするんですか」
田村さんに話を振られて、若干嫌そうに顔をしかめながら絢世が答えた。
そんな不機嫌丸出しの絢世に対して、社長はにっこりと微笑んで宥める。
「まぁまぁ、田村さんがこう言っているんだから。新しいことに挑戦してみようよ」
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