名無しさん 2020-09-21 17:57:58 |
通報 |
スマートフォンに内蔵されているアラーム設定機能にて指定した時間に音が鳴り、瞼が開かれた。
朝起きて先ず初めに、ベッドのヘッドボードに置かれたスマホへ触れてメッセージを確認する。それが彼女、夏川 陽菜の日課になってしまった──あの日を境いに。
『今日もメッセージはなし、か。既読になるだけでも嬉しいことなのだから!』心の内側へ言い聞かせる様に口を動かす。
今日は朝早くから講義があるため早起きして身支度整える。メイクもバッチリ、ドレッサー前にて洋服へほんのりと桜香るフレグランスをひと吹き。甘い香りが室内へゆったり充満していく。充満された香りが薄れゆくのと同時にトートバッグを持ち部屋を施錠した後、大学へと向かう。
学校の敷地内に内へ入り、建物へ近付くにつれて学生の声が増していく。何時もなら隣には大好きな親友のまゆりが居て、お喋りしながら歩いている筈。その親友がもうこの世には居ないという現実を受け入れられずにいる。まだ信じられないよ──まゆり。周りの声を遮断する様にひとりぼんやりと足を動かし、構内へ入るとその途端足が止まる。
周りの景色は全てモノクロに映っていたのだが、其れが一瞬にして彩られた。後ろ姿だけだが陽菜には誰だかわかり、目の前に居るのは彼女が現在片想いしている柊 颯真だ。彼だけが鮮やかな色彩を放ち、陽菜を魅了する。
どんな言葉で話し掛けようか。
颯真を傷つけては駄目だという制限掛かり、陽菜は直ぐに言葉が出なかった。戸惑いながらも彼女の身体は自然に動き出す。ただひたすら一直線に颯真へと向かって歩き、視界へ映り込むよう目の前まで移動すると、足が止まる。
『颯真くん、おはよう!久しぶりに今日、食事作りに行っても良いかな?』彼女は屈託の無い笑顔で颯真に話し掛けた。 『だいぶ上達したから今度こそ美味いって言ってもらえるはずだよ!』 楽しげに意気込みつつ陽菜は彼の隣へと並ぶ。
トピック検索 |