名無しさん 2020-09-21 17:57:58 |
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踏切の前で足を止める。不快な警報音が鳴って、赤色が明滅を繰り返す。……今、ここに飛び込めば**るのだろうか。起きているはずなのに、まだ眠ったままのような、ぼんやりとした頭でそんなことを考えていた。目の前を電車が通り過ぎて行く。俺はそれをただ見つめて、ようやく遮断機が上がった道を、一歩踏み出す。死ぬ気力すら、今の俺には残っていなかった。
『そろそろ大学に出てこないか。花館のことは残念だったけれど、柊には柊の人生がある。花館だって、君がこのまま萎れていくことなんて望んでいな』──昨日の夜、電話で教授から言われた言葉がふいに頭に蘇る。最後が途切れているのは、俺が通話終了のボタンを押したからだ。あんたにまゆりの何が分かるんだ、と言ってやりたかった。けれど、教授の言ったことはきっと真実だ。引きずるような足取りで大学構内に入る。講義に出る前に、教授に昨日のことを謝りに行かなければ。そして、大学を休んでいた間、ずっとメッセージをくれていた彼女のところにも。そう思ってはいるものの、足が鉛のように重い。もう、何もかもが色褪せて灰色なのに、彼女との思い出だけが色鮮やかにこの場所に残っている。惰性だけで動き続けていた足が、前に出なくなる。立ち尽くす。
──君が居ないと、俺は一人で歩くことも出来ないみたいだ、まゆり。
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