語り部 2020-09-12 10:14:44 ID:1662111e6 |
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夕暮れの下、カランコロンと下駄を鳴らす音が一つ。右手には薬代のお礼と称して持たせられた籠いっぱいの桃。左手には薬師に欠かせない大きな道具箱。身体に巻きついた蛇の口には、先ほど露店で買ったお惣菜の袋。遊郭の知りたくもなかった裏事情を見せつけられた翁の胃には、桃のお土産は有り難かった。
『いや、しかし。男も女もその身で金を稼ぐとなると彼処まで……うむ…これ以上は言うまい』
先程の光景を思い出し、胃がキリキリと痛んでくる。彼等は、逞しい生き方をしていると言えよう。それ以上は考えないようにするが吉。どうか、また病だの怪我だの起こらぬように、と己の能力に似つかわしくない願いをかける。
『齢幾百のじぃにはきついものがあるて…』
はぁ、と心の底から吐き出したかのような溜息をつくと、気遣わしげに蛇がすりすりと頬へすり寄る。己が一部の蛇を撫でながら、薬屋まで幾分か続く道をカランコロンと下駄を鳴らし歩いてゆく。
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