さすらいの旅人さん 2020-05-07 02:09:35 |
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「かしこまりました。
美味しい珈琲を振る舞わせて頂きますわ」
嬉しそうに頷くと、珈琲豆が入った小瓶をいくつか取り出し、慣れた手つきでマメを計量し、とてつもなく古そうなミルで挽いていく。古くてもまだまだ現役らしく、豆が挽かれる音とともに香ばしい香りが広がっていく。
そして、続けられる言葉に対し小さく、あ、と漏らせば、申し訳なさそうに肩を竦めて、すぐにまた優しく微笑んだ。
「それもそうですよね…自分から名乗るべきでしたわ。
あら、素敵なお名前。容姿通り格好いいお名前ですね。
でも、残念ながら、私はもっと年上が好きなの」
そう言えば、こちらもクスクスと笑い、尚も力を入れてミルのハンドルを回しながら続ける。
「もう1つ残念なのですが、私、これまでお客様に名乗ったことがないのです。お好きなようにお呼びください、といつも言っていますわ。
…ただ、昔、リナリアと呼ばれた事があります。“幻想”という花言葉を持つお花の名前なんですって」
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