日付の変わった深夜零時。人気のない路地裏で一人の女が襲われた。
背後から動きを封じられ、女は悲鳴を上げる隙もなく薄暗がりの中で何者かに首筋を噛まれた。
突き刺さったところから零れ落ちる血を、その者は舐め取っているように感じ、女は微かに見開いた目を後ろへと移動させた。
暗がりで相手の顔は見えないが、腕力の強さから男だと理解はできた。
男はしばらく女の血を堪能していたが、突然女から離れると自分の喉元に手をやった。男は驚愕の瞳で女を見る。
女は血の滲む首筋に手をやり、真っ赤な唇をゆっくりと歪めて笑った。
「わらわを『深紅の魔女』と知らずに血を体内に入れたか、愚かな鬼よ……」
男――吸血鬼は苦しそうに呼吸を乱して膝をつく。
「『深紅の魔女』の血は、あらゆる者を従わせる悪魔の血。触れただけでも危険なモノを、お前は直接体内に入れた……」
――お前は、わらわから逃れられぬ。
――わらわを主とし、わらわの血しか受け付けぬ身となった。
――己のミスを悔いるがいい、愚かな鬼よ。
こうして『深紅の魔女』と、彼女の従者になった吸血鬼の物語が始まる――