とある妖 2020-04-03 21:48:47 |
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>17 / 透
( まったく理解出来ていない状態でも尚、しっかりと名乗る。逃げ出そうとしない。そんな幼子に冷たく当たる程狐は酷い性格をしていなかった。「透か。偉いな、お主は」柔らかな笑みを湛えて放った言葉は同胞の狸に言わせれば珍しいもの。褒めることの少ない狐は見下す態度を取ることが多いのだ。「我の耳か?まあ、人型では普通の耳があったとて、不思議ではなかろう。だが、強くは掴むなよ?」ふわりと柔い毛で包まれた狐耳を ぴこぴこと動かしながらも、やんわりと注意するだけで接触を拒みはしない。伸ばされた手を自身の狐耳へとそっと誘導し、触りたければ触るが良い、と。「此処はのう、お主のいた場所とは少し違う。お主のいる世界とは異なるから、此処を抜ければ元いた場所、元いた時間に帰れるから安心せい」何処であるのか。それは普段から生活する上では意識していなかった事であり。時代が異なると告げたところでこの幼子に通じるのであろうか。世では"パラレルワールド"と呼ばれても可笑しくない此処の存在が見えるのは、声が聞こえる者だけ。「わからないだろうから案内してやろう。透よ、しっかり着いてくるが良い」百聞は一見に如かず。迷い子が来たら必ずや連れていこうと決めている場所。向かおうとしている場所は、今いる神社の奥の奥。茂みを抜けた先は拓けている街。団子屋、銭湯、旅館に呉服屋等、幼子にとっては新鮮な光景が広がっていることだろう )
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