とある妖 2020-04-03 21:48:47 |
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>16 庵
( 「…え、」鼓膜を打つ柔らかな声と、見慣れない男の姿。頭の上の暖かな手のひらに、未だ覚醒していない脳が混乱と共に動き出す。短い驚きの声、それでも反射的に差し伸べられた手を掴んでのろのろと立ち上がり。「い、おり…?さん…?ええっと、僕は透…ですっ。秋宮透、12歳!」合わせられた視線に居心地悪くたじろぎながらも、きちんと自己紹介をする。「はじめましての人にはきちんと挨拶をする」それは六年生になってから特に気を付けていることだったから。うむむ、と足りない頭で一生懸命に考えて、「庵さんの耳はそれなの?それとも、僕みたいな耳がもう二個あるの?」先程から気になっていた問いを藪から棒に口にして、真剣な顔で首を傾げる。無意識のうちに伸ばした手が髪の上に伸びて、ハッと気づけば触る寸前で進行を止め。じぃい、と無言で眺めては暗に接触の許可を求めて。「あ、それと、ここはどこ?」ついでとばかりに付け足された問いは、ついでの口調とは裏腹に明らかに重要度の高いものである。困ったように辺りを見回すも周囲の風景は馴染みがなく、どうも帰り道の中途にあるようには思えないのだ。あちこち寄り道する己がこんなに面白そうな場所を見逃すだろうか?そんなわけない、と否定の文句が頭の中で響く。「ううん、じゃあ、新しく出来たところなのかな?」小さな独り言に現れた至って真面目な考察は、非現実的で子供の空想の域を出ない。こんな場所が短日のうちに出来る筈がないが、子供の脳内ではカンカンと釘を打つ目の前の相手の姿が上映中で )
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