とある妖 2020-04-03 21:48:47 |
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>15 / 透
( 誰であれば、我の声を聞き取ってくれるのであろう。神社から人間のいる地上を見下ろし。否、観察といった方が正しいかもしれないが。その先にいたのはとうに門限が過ぎているであろうに、一人で歩く少年。彼から感じる空気は当然他とは違う。少年、聞こえているか?我の声が聞こえるのなら、神社まで来るが良い。そんな言葉を投げ掛けたのは、彼が自分の言葉を聞き取ってくれるとの確信を得たからであった。そこの階段を上って、それから──脳へと直接届くように、あるいは耳元で囁くように。指示のままに素直に動いてくれる少年を見て、狐の尻尾は無意識にゆうるり、ゆうるりと揺れる。からん、からん。下駄の音を響かせて近寄ると、意識を失った少年の顔を覗き込んで口を開いた。「どうやら、我の声がしっかり聞こえていたようだな。お主は良い子じゃ」ぽふり、彼の頭へと手を伸ばす。状況が飲み込めないのは当然、それでもあえて説明は加えようとせずにただ手を差し伸べよう。ほら、立つのだ、と言外に伝えて。ざわ、ざわり。立派な大木も彼の訪問を歓迎すべく揺れている。ぶっきらぼうに自身の名を告げると、自分よりもいくらか小さい少年と視線を合わせる様そっと屈んで )──我は庵と申す。お主は?
お主の訪問、喜んで歓迎しよう。我も自信を持って胸を張れる程上手い言い回しが出来るとは思っておらぬし、時間ならまだある。来週の今日、土曜日までゆっくり語らおうではないか。途中で何かあればその都度話し掛けてくれたら良いからな。
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