とある妖 2020-04-03 21:48:47 |
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[ 零章 人間界へ ]
古ぼけた神社には妖がいた。狐に狸、人狼に座敷わらし。彼らが待つのは自分の声を聴いて、此処へと赴いてくれる人間ただ一人。己の退屈を解消してくれる者がいてくれたらとそう考えているのだ。「しかし、退屈じゃのう」「文句ばかり言っていられないわよ」もうだめだと諦め気味の狐はからんと音を立てて神社を抜けていこうとする。ゆらり、ゆらりと揺れる尻尾は早く早くと急いているようでもあった。「……待って、都も行く」無遠慮に狐の尻尾を掴んだのは座敷わらしの幼い手。ぎゅっと掴んだ動作こそ幼子のようであったが、力は狐を後ろに大きく反らせて尚余りある程。「……仕方ないのう」幼子に弱い狐は諦めて息を吐き、微笑んで座敷わらしを見る。しょうがない、待っていよう。そんな暖かい気持ちで。「俺も連れてけよ!勿論雫も一緒にな!」騒々しいのが来たと狐は先程座敷わらしに向けたものとはうって変わってじとりとした冷ややかな視線を人狼へと向けて。「そういうことだから、一緒に行っても良いかしら?」申し訳無さそうに眉を下げて話す狸に、面倒さを隠さずに告げる。「嫌だと言ってもどうせ着いてくるのであろう。好きにせい」四名の妖は神社を抜け、人間に向かって声を飛ばす。まだ見ぬ話し相手を見つける為に。
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