主 2019-12-11 01:03:56 |
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>橘
こう、で……こう……違えな。こっちか。で、こう……いやダメだな、左ががら空きになっちまうから……。
(鏡。鏡の前で左掌、右膝、右肘、左爪先、右掌底。流れるように素振りをして鏡に映る自身を仮想敵の陽炎として熱心に型を繰り返す。鏡を前にすると人は誰しも自身を見つめなおすという。例えばそれは身だしなみだったりおしゃれであったり。それが玖珂恭司郎にとっては武の型だったというだけの話。実習棟の手洗い場にて、鏡をみてなんとなく素振りをしたらハマってしまった。そう――理科室隣の、男子手洗い場である。「! なんだ……?」反対側からだろうか。唐突に壁を打ちつける音が響き、こちらもほとんど条件反射で音がした壁を反対から殴り返す。その顔はイラッとしていた。誰だか知らねェが喧嘩売ってやがンだな、と。大股で手洗い場を出れば、真隣の理科室の扉を勢いよく引いて、中へと怒鳴り込んで)
誰だコラァ! 人がせっかく無ェ知恵絞って新しい型を試してン……!
(と。そこにいたのは予想もしない教師の姿で。鬼の形相もかくや、そのまま固まってしまい)
(/絡ませていただきました! 案の定絡み方もアホの子ですがよろしくお願いします……!)
>芹華
……だな。お前はそんな事で泣きゃあしねェよな……。
(しゃくるような嗚咽交じりの声が、ひどく胸に刺さった。同時に相手の言い分はもっともなものだった。確かにこいつは怒鳴られたくらいで泣くタマではねェなと。じゃあなんだ? 理由はなんだ? 思考がぐるぐると交差するがわかるはずもなくて。とにかく、今は――。手を差し伸ばしたもののどう触れていいものかもわからず、そっと相手の頭に掌を乗せる行為を1回、2回と繰り返してから、ゆっくりと撫でて。バッと弾かれるかとも思ったがそんな事もなく。肩を震わせてただ涙する相手の姿は、日々研鑽、勇往邁進する普段の面影がまるでなかった。“こんな顔してたっけか、こいつ……”視線を合わせ、近づけた顔でまっすぐ相手を見やれば、そんな感想を抱く。思考が表情にでてしまったのか、相手は拗ねたように視線を逸らして口を尖らせていて。「いい。もういい。何も言うな。俺が悪りィ。悪かった。すまねえ。この通りだ」屈んだ姿勢でそのまま片膝をつけば、頭を下げる。そう、そうだ。いかに護衛者などといったところで女、ましてまだガキ相手に俺ってヤツは……と激しい自戒の念に捉われた。どんな理由があろうと、女を泣かすヤツは男と認めねえ。そう思っていたはずなのに。「なあ。俺は、お前に――」と、顔を上げたところで。『玖珂! おまえ……またか、なにをしている!?』背後を振り返れば――先ほどまで、職員室で相対していた教師がこちらへ駆けてくるのが見えた)
>誠
はっ……まァ、親不孝なんつったら人の事どうこう言えた義理でもねえからな、俺も。
(くつくつと笑う相手につられてか、口元を緩めた。言葉の端々、そして態度の節々に不機嫌を匂わせているというのに眼前の相手はまるで意に介した様子が無い。確かこういうのを“柳に風邪”とかいうんだったはずだ。柳が風邪なんかひくわけねーもんな、などと頭の中でくしゃみする柳をもやもやと浮かべながら、会話へ応じる)
バカ野郎、3年だろうが2年だろうがここ通らなきゃ帰れねえだろうが。みろ、お前以外誰も気にしてねェだろうが――。
(と、周囲へ意識を巡らせたところで、遠目にこちらの様子を窺う生徒の視線がいくつも視界に入って「なっ……見せもんじゃねェぞコラ!」と吼えてから舌打ちをする。)
ったく……つーか誠! てめーは一体全体何の用で声かけてきやがった。俺は今自分の行いに猛反省中だ。まさかそんなつまらねえ世辞言う為に近づいてきたわけじゃねェだろ?
(まったく猛反省に見えない態度のまま八つ当たり気味に相手を睨めば『家は関係ない』などという言葉にふっと笑って)
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