! 2019-11-01 16:11:42 |
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───嗚呼、ありがとう。
( 冷たい雨がしとしとと夕刻から降り注いでいて未だ止む気配はない。今は既に夜中、高かった月が少しずつ傾いていて、時はとうに経っている事を物語っていた。青白い月明かりが照らす中、小さな池に雨の波紋が拡がり消えていくの繰り返し、まるで模様のようにさえ錯覚を覚える。はらりと舞う藤の花は、異様に燈り雨に打たれ哀しく散っていくその様のなんと美しき事か。幾重にも重ね着された羽織と袴は雨に濡れ重く身体に伸し掛り、まるでこの場から離さぬようにも思える程。どれくらいまで雨に打たれていたのか、冷えきった身体は感覚を失い、腰よりも長い髪から伝う雫は涙の様。ふと、それを断ち切る影が頭上から掛かればゆたりと首を傾げ視線を向けると番傘を持つ男が独り。つかえた喉仏を上下させ感謝の言葉を紡いで見せれば、やけに哀しそうな顔の彼に此方も釣られて泣き出してしまいそうになる。この選択は間違いだったのかもしれないし、違う道もあったかもしれないけれど、今の自分達に残された選択肢はこのひとつだけ。互いが互いを求め過ぎてしまい、最初こそ唯のこそばゆい恋慕だったはずだが何時からか黒い渦に呑まれるようになってしまったのは。何処かで歯止めを効かせなくてはいけなかったのに、何処かで間違っていると気が付くべきだったのに。否、気が付いていた。間違った感情だとも互いに理解し、それ以上を求めてはいけないとも分かっていたのに。一度狂い出した歯車は止められなくて、黒く重い感情に支配されていった。男に促され、ひとつ返事で頷くと地面へと番傘が落ちてゆく。遮る物が無くなれば二人を再び雨が襲う。顔を見てやりたいが、名残惜しくなってしも仕方ないと頭上に咲き誇る藤へと視線を上げる。背後のやや高めの位置から首元と胸元へと腕が回ってくるのをしかと受け止め、露にされた首筋に雨が落ち冷たさを感じたのも束の間、首筋に吐息が掛かると鈍くも突き抜ける痛みが走ればそれはゆっくりと、だが確実に自分の命を吸い上げていた。永遠を望んだが故の末路。長い長い時を生きる男と、一緒にはなれないならと男の“中”で生き続ける事を選び、この命に最期を迎えさせる。霞んでいく視界の向こう薄れゆく意識のなかで、藤の華が散っていく。首筋に暖かい雫が伝う感触がして、抑えられた首から空気を含み男へと声を掛ける。)
ごめんね──
(/興味をそそられるトピで数年ぶりのチャット故リハビリがてら駄文を……。
ハッピーエンドもバッドエンドも好いていますが、メリーバッドエンドが大変好ましい背後です。
勧誘歓迎と一応致します。
駄文ではありますが、楽しい機会をありがとうございました。)
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