ロズ 2019-05-24 00:34:54 |
通報 |
第二話
鈍く光るスコップは、思いの外容易に地面にささった。からりと晴れた晴天。いたずらを企むのにはもってこいの天気だ。
「ふーっ、このくらいか」
グレンとわたしは、痛む体をさすりながら、空を仰いだ。
ユーリは一筋縄ではないかないーー否、一つの穴ではひっかからない。だからわたしたちは、囮の穴と本命の巨大な穴を掘った。ユーリが囮の穴を避けたとき、ちょうどそこに本命の穴があるという寸法だ。ようやく完成した自信作の巨大な穴を満足げに見ながら、わたしは穴から出ようとしてはたと嫌なことに気づいてしまった。
「……ねぇグレン、あんたこれ登れる?」
深く掘りすぎた。
よく考えてみればわかることだった。
グレンよりも背の高いユーリが簡単に登れないレベルの穴を掘れば、わたしたちだって出ることができないのだった。そのことに気づいたらしいグレンは顔を青くしている。この快晴よりも真っ青だーーと茶化せないのは、わたしも負けず劣らず顔面蒼白になっていることがわかっているからである。
「「た、助けて~っ!」」
全力のSOSが届いたのか、すぐに人影が現れた。
……しかし。
まぁなんと間の悪いことにーーユーリからしてみれば逆だろうがーー現れたのは、ユーリだった。
「二人とも、どうしたの」
いつもの優しい微笑、ユーリ大好き女子曰く王子さまスマイルで登場したユーリは、す、と手を伸ばしてきた。悔しいけど、背に腹は変えられない。
わたしはその手をとって落とし穴からなんとか脱出した。
「グレンはもうちょっとそこにいたい?」
「……んなわけあるかよっ」
「うん?ごめんね、聞こえなかった」
「……出るよ、出る!」
「あは、聞こえないんだけど」
「……出させてください」
「ごめんね、耳の調子がよくなくって」
「出させてくださいお願いしますぅ!」
ようやく伸ばされた手につかまって、這い出るグレン。
あ、悪魔じゃ……悪魔の笑顔が見えたよっ!?
あれのどこが王子さまスマイルなのだろう。わたしは、精も根も尽き果てたのか、脱け殻のようになってしまったグレンに目をやってため息をついた。
「ジャンヌ」
わたしは、悪魔の笑みがこっちに向くのを覚悟して身構えた。
「もう、あまり危ないことはしないで。みんなのところにいないから心配したよ。僕のために落とし穴掘るなら、危ないから僕の目の前でしてね」
……いや、それ落とし穴の意味ないから。
でも、いつも思うけどユーリはちょっとだけわたしに甘いというか、過保護だよね。自意識過剰と言えばそれまでだけど。まぁ、グレンの扱いが他と比べ物にならないくらい雑なのは知ってるけど。
いいコンビだと思うし、ユーリもそれだけグレンには心を開いてるんじゃないかな。
トピック検索 |