ロズ 2019-05-24 00:34:54 |
通報 |
「**」
その一言だけだった。
威圧も感じられない、一言。
何が起きたのかわからない。
わかるほど強くなかった。
わかったのはーーさっきまでそこにいたドラゴンが。
伝説級とうたわれたドラゴンが、そこで死んでいることだ。
自分の父親の一言によって。
「ヴヴィアンヌ」
「わかりましたよ坊っちゃん。ちゃんと片付けます」
少し気だるげにうちのメイド長がやってきた。
銀色の髪をひとまとめにし、血のような赤い瞳をとろりとさせながら。
片付ける、と言っておきながらその手に握られているのはほうきや雑巾ではない。
鈍く光る斧だ。
硬いドラゴンの鱗を貫通し、容易くドラゴンをぶつ切りにしていく。
「あぁ美味しそう。今ここで食べたいですけど、そんなことしたらレディとしての品格が疑われますからね」
どう見ても二十歳より上には見えないような絶世の美女メイド長は、四十代そこそこの玉座に座った俺の父親を坊っちゃんと呼びながら、ドラゴンを片付けていく。
「あとで美味しくいただきます」
楽しそうにはにかんだ口もとから、異様に長い犬歯がのぞいた。
バクバクする心臓を押さえる。
ダメだ。
違いすぎる。
ひきつって息をすることを忘れたらしい俺の肺がひゅんと鳴った。
幸いなことに、俺の肺は人間よりも丈夫だから、一週間くらいは息をしなくても大丈夫だがーー。
「いるんだろ、レイモン」
自分の名前を呼ばれて飛び上がる。
おそるおそる物陰からでてくると、俺の父親はニコニコと笑っていた。
ついさっき、ドラゴンを殺したというのに、ニコニコと笑っていた。
「あ、の……」
「どこに行ってたのか知らないが、心配するなレイモン。お前は俺の子だ。大きくなればお前も俺みたいになる」
俺みたいな、魔王にーー。
魔王。
魔物を統べる、絶対的な王。
『わたしはジャンヌよ。よろしくね』
とてもじゃないけど、間違って人間の住みかまで行ったとは言えない感じだった。
ましてや。
人間の友達ができたなんて。
トピック検索 |