零 2019-05-11 05:21:39 |
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( 月明かりは今日も不穏に賑わう夜を静かに照らしている。変化のない不穏は平穏と同義だ、こんな日に限って来客も訪れないのだから自身の中に潜む虚無感に目を逸らすことも上手く出来ない。なんて運の悪い夜なのだろうと、男は項垂れる様にカウンターに突っ伏した。──あれから暫く、あの男は突然此処に訪れるのを辞めた。自分の力を持って最大限の捜索を重ねれば今何処で何をしているか位は突き止めることが出来るだろうが、この男にそれをするつもりは端から無かった。……知った所でどうするというのだ。奴に関わる気が無いというのなら此方から干渉する理由も無いし、この街を出てしまって居たら流石に情報を集めるのにも骨が折れる。思い返せば、今までの関係が異常だったのだ。この男は誰か特定の人物と深く関わる事は好まない。それなのに土足で遠慮も無しに踏み入れてくる相手の無神経さが心底嫌いだった。大嫌いな男がやっと自分との関係を絶ってくれたのだから何も憂う事は無いだろう。その筈だ。それなのに。一度埋められた心の穴が再び開いていくような、ずっと昔に慣れたはずの孤独感が毎夜じわじわと心を蝕んでいく。 )
………出会う前に戻っただけ、なんて、考えられたら苦労しないよ。
【 創作の墓場 】
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