梔 2019-05-10 21:27:49 |
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>>榊
(彼の静かな声はわずかな音量であれど、自分の頭の中でこだまし、じわりと体に溶け込むかのようだ。その柔らかな音色が飾る言葉は更に温もりを持ち、自然に「我等が花朽ちる其の時まで…」と自分の口からも流れ落ちる。彼が作り上げたこの言葉が自分と彼を指すものだと分かるや否や、それは今この瞬間どんな言葉よりも美しく、汚れのない音であり、唄であり、呪文のようでもあった。恍惚。彼の隣に自分が並べた、と勘違いをしてしまいそうになるがぐっ、と唇を噛み締めて自惚れの無いように身を引き締めるが、彼が戻ってきてくれる、その事実だけで目の前が霞みそうだ。「我々が望むのは貴方だけです。…それ以上でもそれ以下でもございませんとも。」彼の指がなぞった皮膚だけ暖かく、心地の良い、春を思わせるその所作に触れられた側の瞳だけをつい細める。「……はい。お邪魔してもよろしいですか?」はじめ、口をつこうとしたのは『滅相も無い』。しかし、眉尻の下がった彼の視線と自分の視線が絡まった後に口から出たのは上記。ずるい人間だな、と自分へ嫌味を送りながら、困ったように笑む。そして少し悪戯気な笑みを加えて彼のこちらへ伸びた腕の内側に唇を寄せて「こんな男ですが。」と。)
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