御鏡 2019-03-23 18:45:40 |
通報 |
お久しぶりです。すらんぷとかすらんぷとか色々あって浮上してませんでした。 ( )
大分前にかいたやつをちょこッと修正したやつです 。
白い月がぼんやり浮かんだ夜、俺はとある人物に呼び出された。
とある人物とは、俺が所属している組織の一番トップ、通称リーダーのこと。
正直、リーダーは苦手だ。あの貼り付けた笑顔が妙に気持ち悪い。……主に相棒から笑顔が気持ち悪いと言われる俺が言ったことじゃないけど、まあそれは置いといて。
まあ大体予想はついている。恐らくこの前の仕事のことだ。
重大任務で少々やらかしたことだろう。俺も立場は上のほうだし、上司じゃ俺の性格上対処できない。というわけで少し前から、やらかすと逆らえないリーダーに呼び出されるようになった。ほぼやらかすことはないんだけど。
やらかした言い訳はしない。寧ろあの人の前で言い訳をして無事に帰ってきた人を見てみたい。殆ど精神が折れるのだ。それか、物理的か……
そんなことを思っていればあっという間に指定された部屋の前へと来た。わざわざ防音魔法を異常に重ねた部屋なんて、あの人は何をするつもりなのか。
「失礼します」
ノックをし、少し間をおいて扉を開く。広いとは言えない部屋なので、すぐにリーダーが視界に入ってきた。
頬杖をつきながらにこにこと笑みを浮かべる相手が胡散臭く感じ、少し眉を寄せてしまった。
「やあ、月露くん。あの重大な任務は無事終わったかい?」
わかっている癖に何故問うのだろうか。しかも『無事』を強調して。こういうところも苦手だ。
此方を探るようにして見る瞳は左右違う色で、澄んでいるはずなのに濁ったように見えた。……内側が黒いってことなのか、きっとそうだ。
「もうご存知なのでしょう? 私の相棒をこの手で傷付けてしまいましたよ」
淡々と無表情で述べれば、リーダーはクスクスと笑い出した。何が原因で笑っていられるのか。
「はは、そうだね。君は君の相棒のヨウカちゃんを傷付けた。あの子は重要人物だって言ったんだけど、まあいいや。そんなことで呼び出したわけじゃないんだ」
「申し訳ござ……は?」
一瞬動揺してしまい本音が出てしまった。
いつもの笑顔で相棒のことを雑に終わらされた気がして、驚愕や怒り、疑問が混ざったせいだ。
「あっはは! その顔いいね、珍しい表情だ。月露くんは笑ってることが多いからね? ……さて、今回呼び出した理由はね、任務とか仕事とか関係ない、君自身のことに用があっただよ」
多分口がぽかんとあいているであろう俺の顔をジロジロと見た後、面白そうに手を叩いた。叩き終われば、更に笑みを深めた。同時に目も細くなり、その奥は面白いといっているようだった。
この人の右頬にえくぼができたときは、愛想笑いではないということを、俺は知っている。今右頬にえくぼが出来ている――つまり楽しんでいるらしい。
といわれても身に覚えがない。この人が楽しむようなカードを俺は持っていただろうか。答えは否。
……答えは否と言えるのに、どこか寒気がするのは何故だろうか。
それでもえくぼが出来たのは先程の表情のことかもしれないし、取り敢えず疑問を消したい故に言葉を放った。
「そうですか。それで、私自身に用とは、どういう意味でしょう?」
問えばわざとらしくきょとんとした顔を作った相手。だが直ぐ普段の笑みへと戻し、あざとく首を傾げた。
一つ一つの所作が無駄に綺麗で腹立たしい。ちょっとしたイラつきが顔に出そうになったとき、整った口が開かれた。
「どうって、そのままさ。本来なら月露くんは、ヨウカちゃんを護るはずだったのに、物語のように上手くいかないものだね」
独り言のように零したそれは、さらに疑問が深まるだけだった。
全く、理解が出来なかった。その言い方じゃまるで、元々の話があるみたいじゃないか。
「理解不能って顔をしているね? 物語は、物語さ。何故そんなこともわからないんだい?」
思っていることを読み取られ、軽く肩が跳ねた。困惑に驚愕も含まり、思考が恐怖にへと進む。
こいつは何がしたいんだ。何が言いたいんだ。
「……物語ってなんです? リーダーは何を仰りたいのでしょうか」
困惑ながらも出た言葉は少々震えてしまい、感情も出てしまったと思う。
冷や汗が滲み、リーダーを睨んでいても、気にする様子もなく、くつくつと喉を鳴らしながら愉快気に話したのだ。
「僕の、物語さ。僕の作った物語を現実にするって、前も言ったでしょ?」
こいつ馬鹿なのか、と思った俺は悪くないと思う。
そんなぶっ飛んだ話を聞いていたら絶対思い出す。なのにその記憶がないってことは、『前』なんてないということで。なのにどうしてこうズレているのか。
「そのような、奇妙な話を聞いた覚えはございませんが……どういうことでしょう?」
此方が首を傾ければ、笑みから不思議そうな表情を浮かべた。俺の方が不思議そうに見つめたい。許されるなら一発殴りたい。
暫く見つめ合っていれば――本当は目を逸らしたいけど――先程の笑みとは変わり、にやりとした笑みとなった。
「ふうん、少なからず、興味を持っているのかい? いいよ、特別に教えてあげよう」
気になるところだ。疑問も消えるかもしれない、が。どうしても得体のしれない何かがあった。
その笑みの奥に何があるのか、到底読み取れない。だから断ろうと思っていたんだ。
「いえ、やはりいいで――」
「君に拒否権なんかないよ。僕の質問に、答えて?」
断ろうと思っていたのに、言葉で覆われた挙句、ぞくりとするほど美しく恐ろしい笑みを見てしまった。恐怖感に包まれるのに、赤と金の瞳から目が離せない。
煩いほど激しく鳴る鼓動を落ち着かせるように、此方も表情を笑みへと変化させた。
「……君は、過去に重要人物の少女と出会ったことがあるだろう?」
――重要人物。それはリーダーが守る人達のことらしい。俺はその一人に会ったことがある。
確か、小柄で不思議な子だったと思う。最初は拒絶されて……あれ、歓迎されたんだっけ……?
と、話が逸れた。返事の代わりに首を縦に振って肯定すれば、相手は目を細める。
「じゃあその子は、どんな色の髪と瞳なのかい?」
音もせず立ち上がり、目尻の下がった目を此方の目と合わせたままのリーダー。心情を読まれるようであまり目は合わせたくないんだけど、この人はなぜか中々目を離させてくれない。
「? 何言っているんです、黒髪赤目で……」
黒髪、紅目? 本当に?
頭の奥に痛みを感じた途端、そんな問いがふと思い浮かんだ。
なぜ思い浮かんだかわからないが、いい気分にはならないため誤魔化すことにした。
「その子は、どんな性格だい?」
誤魔化しで首を振ったのがいけなかったんだろうか。少し低くなった声で尋ねられ、探るような瞳で見られた。
「……気さく、で、誰とでも仲良くできるような……」
ちがうでしょ?
俺の声でもリーダーの声でもない、どこかで聞いた少女の声が頭の中で響く。
……何が違うかはわからないが、声の主は、過去の少女ではないということは分かる。
じゃあ、誰だ。
今日は何かがおかしい。今までこんなことはなかったし、リーダーの前でもこんなに感情を出すことはせず、ただ淡々と……
「へえ? 白髪青目の、中々心を開かない、孤立してしまった厄介な少女ではなく?」
リーダーの声で考え込むことが強制的に終了された。
いつの間に近づいたのか分からないが、とん、と人差し指で胸元を軽くつつかれ、急に混乱する。リーダーの言葉は、俺が思っているあの少女とは正反対の子だったからだ。
――本当に分からないの?
その声が聞こえた途端、記憶を支えていた糸がぷつんと切れた、感じがした。
刹那、頭に激しい痛みが走り、どこからか自分の声が一斉に耳に入ってきた。
――違う。
ちがう。
違う違う違うちがうちがう。
何が違う。誰が違う。どこから、違う。
……最初から違っていた? 何が?
あの子だった? この子だった?
違う、あの子じゃない。違う、あの子だ。
どうして忘れている、どうして覚えている。
忘れなきゃ、思い出さなきゃ、崩れてしまう。
違うんだ。やめてくれ……あの子は、あの子は――
様々な感情と記憶がぐるぐる回って、黒でぐちゃぐちゃに塗りつぶされる。
何が本当か何が嘘かわからず、何もかも分からないまま視界がぼやけた。
そのまま頬が濡れ、頭が真っ白になる。真っ白になった刹那、意識も真っ黒に染まった。
意識を失う直前、誰かが優しい笑みを浮かべた気がした。
トピック検索 |