御鏡 2019-03-23 18:45:40 |
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「…薫…。」
『はいはい、どうしたん?』
恋人である綾子が、やけに悲痛な声で俺を呼ぶ。
「ねえ、私仕事で失敗しちゃったの…」
『あはは、そらしゃあない。綾子やって
頑張ってんやろ?』
俺が答えると、綾子は笑った。
「ふふ、そうよね。もっと頑張らなくちゃ…」
『せやなぁ。でも無理はせんでええねんで?』
綾子は「私、頑張る!」と元気に言って、
俺にハイタッチを求める。
『はいはい、頑張りや』
俺も手を伸ばしたが、綾子は手が触れる前に
立ち去っていってしまった。
『…何や、変な綾子やなぁ』
俺は不思議に思いながらも、近所のお婆さんに
挨拶をする。
『おはようございます』
ところがお婆ちゃんは、耳が遠いのか
返事をしてくれなかった。
『…?』
俺は家に戻るものの、お腹は空かない。
弟たちも気付いてくれない。
何故だ?
その時、外から話し声が聞こえた。
〔…大変よねぇ。ここの息子さん…………〕
〔そうよねぇ。まだ若いのに、
……………じゃうなんて〕
だがざわざわとしていて、よく聞き取れない。
『…嗚呼、そうか。俺は……
もうとっくに、死んでたんやな』
そうだった。俺は綾子を庇って、
車に撥ねられて死んだんだった。
何故こんな大事なことを忘れていたんだ?
綾子が心配で、成仏できなくて…。
『…幸せになりや、綾子。俺はいつでも
見てるから』
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