御鏡 2019-03-23 18:45:40 |
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「…ああしてると、保父さんみたいだね…ユリウス」
「…まるで、全てを忘れてしまったようにも見える…ねー…」
「……しかし、それは決して有り得る事では無い…何故ならば、全て書かれているのだからな……」
エリックとヴァランタの呟きに、ドロセルは手にしていた本をゆっくりと開いた。有名な小説家、
アラクネアが出版した新書。三人の若者が、自分達の弟妹を救えず後悔しながら大人になり、
そしてその罪を償おうと、今からでも弟妹を救おうとする話。
『一人の青年は、非道な虐待に遭い、
愛されるために自ら心を壊し、道化を演じる』
『一人の少年は、その性格によって残酷な虐めに遭い、
己を守るため、その身の内に新たな人格を生成する』
『一人の少女は、頼れる兄が不在の内に残虐な事件に遭い、
消えた両親と兄の代わりになる人物を、盲目的に信頼する』
「人格者アラクネア…本名はエンスピル・ダル、か…謎に満ちた男だ。私が今後を綴るのに対し、
彼は過去を綴っている。全てを、知っている。誰にも話していない事でさえ、知っている」
「…エレクトロ・エレクトロニカ、か。今思えば、変わった偽名を思い付いたもんだね、ボクも…
…結構気に入ってるんだけどさ。ヴァランタ・ヴィストリック…キミはどう思う?あ、偽名の事ね」
「キミがそう思うんなら、良いんじゃない?キミだって、ボクと同じ意見でしょ?
……マリネッタ・ルーク・チョッカー」
「…懐かしい名だな。嗚呼、ライトニア・ヴェッセント。
キミが満足しているのなら、私も異議はないよ」
互いの名を、改めて呼んでみる。すると、捨てた筈であったのに
懐かしく暖かく、捨てるのが躊躇われた。
「否、私はドロセル。そう、ドローセル・ブラットウェルなのだ…立ち止まる事は、許されぬ…
…綴り続けなければならない…」
「エレクトロ・エレクトロニカ。この名を負って、ボクは社長として会社をより良くするんだ…!」
「ボクは本当の自分を捨てなかったけど…そうだな、お前達が固い信念を持ってるんなら、
協力しねぇワケがねぇだろ。何故なら、ワタシはヴァランタ・ヴィストリック……
大手テレビ局の局長にして、一流のプロデューサーだからねー☆」
「有名になったならば」
「権力を持ったならば」
「それを存分に振るおうではないか」
「「「我等が目的のために」」」
脱ぎ捨てられた虚飾の仮面を、再び被る。それは、過去から眼を背けるためではなく、
過去に向き合い、そして現在を変えるため。三人の権力者達は、スタジオを後にした。
今も尚、綴り続けられる物語の最後には、こう書かれている。
〈罪は消えない。それ故に、罰が常に背を狙っている〉
〈その背を狙うは、罪の証〉
〈手に入れた力を以て、権力者達は弟妹を救う〉
これにて完結。何度も連投してすみませんでしたぁッ!
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