函 2019-03-04 22:38:57 ID:299449800 |
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お題ありがとうございます。難しいので実力が追いつくまで気長に待っていて頂けたらと思います。
途中まで書いて力尽きたやつ
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公園の時計はとくに0時を通り過ぎた。空には仄かに星が瞬き、寒々しい街頭の明かりが真っ赤な屋台を夢のように照らしだしていた。
その真ん前で、少女が声を張り上げている。
「あなたの記憶、買い取りますよー!」
年齢は、見た目には13歳ほど。菊模様の着物を着て肩に鼠か何かの頭蓋骨を載せ、真っ赤な髪を下で二つに結んでいる。その毛先はくるくる丸まって彼岸花のよう。瞼は閉じられたまま開くことはない。その端正な風貌に成長したらさぞ美人になるだろうと思わせられるが、彼女は死産で生まれ、母親の妄想から質量を得た正真正銘の人外だ。
それでも尚、陽気な声と大きな仕草で客を呼ぶ様子はつい声を掛けてしまいたくなるような愛嬌に満ちている。
「記憶……?」
草木も眠る丑三つ時のはずなのに、一人の少年が少女に近づく。
少女と年は近そうだ。不安そうな表情で、背中には大きなリュックサックを背負っている。手には文明の利器たるスマートフォンを持っているが、その画面にはひっきりなしに電話やメッセージの通知が流れていた。電池の形のランプが赤く点滅している。
「はいな。記憶と引き換えにお金をあげる。とっても素敵なお店ですよー!」
友好的に微笑む少女はしかし、既に相手の腕を掴んでいる。乱暴になら振り払える力ではあるが、彼にそれが出来るかどうか。
「ぼ、僕、ちょっとそういうのは……」
「はいはい。お話はお席でね」
案の定ずるずると引きずられ、渋々ながら屋台の簡易的な椅子に腰を下ろす。目の前に湯気の立つお茶が差し出されても彼の気分は冴えないままだ。
「まずお名前を伺いましょ。私は曼珠沙華、もしくは彼岸。もしくはリコリス、もしくはリコ。あなたは?」
「……あの」
「はい?」
こんなところでこんな訳の分からない少女の相手をしている場合ではないのは分かりきったことだった。少年は先程よりは幾分かはきはきとした調子で言う。
「僕、本当になんでもないんです。ただ通りがかっただけで――」
「それはないわ」
少女の口調はさらにきっぱりとしたものだった。その肩に乗った骸骨がほんの僅かに震えた気がして、少年は目を見開く。
それに目もくれず言葉は続く。なんでもないことを、たとえば算数の計算間違いを、生徒に指摘する先生のように。
「あなたは望んだからここに来たんです。そんな人にしか”ひらく”ことはない、ここはそういうお店なのですから」
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