罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
…またご馳走になってしまいましたね。ありがとうございます。(彼の料理を食べると、不思議と笑みが溢れる。それは、彼が丁寧に手間と暇を掛け、食べる人へ対して愛情を込めて作ってくれるからだろう、と微笑みを浮かべる彼を見てそう思う。笑顔になれる料理。なんて彼らしくて素晴らしい響きなんだろう。そんなことを思い浮かべる自分もまた笑みを深くしたが、マスクの下でその笑顔はそっと影をひそめる。羨ましい。まったく浅はかな感情であるが、自分が埋めることのできない時間が彼らの間にあることを痛感してしまうと、それは止められない。そんなの当然のことだ、これは身勝手な邪な心だ、と良心が咎めるのを気にする余裕もなく只々その景色を見つめる。眩しい、なんて思いながら。「いえ、イチは可愛いヤツですし、自分の方が構ってもらったくらいです。」それでも、相手が隣に座ってくれただけでさっきまでの鬱々とした感情は何処かへ四散してしまう。安心感と、ほんのひとつまみの優越感。「体調は良好です。あと数刻もすれば万全でしょう…ご心配をおかけしました。」彼の親指が頬の上を滑るとその経過点がじわりと熱を持つ様な感覚になる。その暖かな動作にかかれば、仕事も溜まってしまっているな、という憂鬱な気分も晴れるというもの。彼の指の美しさは、単なる容姿のみならず、優しさや温かさのこもった動作を通じてのものなのだろう。しかし、日向ぼっこの様な心地よさに目を細めたのも一瞬。蛇に睨まれた蛙になった気分で「…イチの提案で今度買い物に行く事になりまして、その事を揶揄したジョークのひとつかと。」本人を前に、相手の様々なことを教えてもらおうとしていた、と言える様な度胸は無く、内心罪をなすりつけたイチに謝りつつ苦し紛れにそう話す。「…誠さんは、誰かと出掛けるのはお好きですか?」少しだけできた沈黙を気まずく思い、浅く息を吸うと、ふと思いついた疑問を口にする。その際、イチへの対抗心からか、それとも自己顕示欲か、恐る恐るながらも彼の下の名前で問いかけてみて。)
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