罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>梔
(相手の顔色が幾分良くなったことに安堵しつつ山道へと進めば、彼の行き届いた配慮もあり足場の悪い山道も難なく登りきり、ついに決戦の舞台へと辿り着く。流石の自分もここに来て緊張の糸が張り詰め、失敗出来ない重圧がずしりと襲い、霧が濃くなるごとにそれは重さを増していき、毅然とした表情の中に僅かな強張りが混じる。それでもふとつねに支えてくれる彼の存在を思い出せば、自然と荷が軽くなって微かに口元を緩め。隣に身を潜める彼の背中に確かな意志を含め軽くトンと触れて、それを潜入開始の合図とすると他の部下達にも合図を送り。相手の予想通り、早朝の警戒は緩く濃い霧に溶け込むことで中への潜入は上手くいった。それからは2人一組となってそれぞれ散らばって密やかに作戦の遂行に移る。することは簡単、敵が集団で眠る部屋に毒ガスを散布するだけ。シンプルだが少人数で大人数と対峙する場合には真っ向勝負になる前に出来るだけ敵の戦力を削ぐ必要がある。此方の動きを悟られる前に出来るだけ静かに内側から攻め込んでいき、見張りも背後から羽交い締め声を上げさせることなく地に沈めて。そうして漸く相手を連れ立ち幹部の部屋の前に辿り着いた時、背後から忘れもしない声が響く。「鼠がうろちょろしてると思ったら憐れに死んだ老いぼれんとこのゴミ連中じゃねぇか。」地を這うような嘲笑と誹謗、声の主は先代を討った男、この組織の主格。ほぼ反射的に刀を抜いて振り返り男に刃先を向けるが、状況を見てグッと奥歯を噛みしめる。男の腕の中には別行動していた部下の一人が人質に取られ銃口を頭に当てられていた。もう一人は…、と最悪な想定をして刀を持つ手に力が入るが表情は崩さずに「おかしいな。君は俺が胸を刺して殺したと思ったんだけど。」と憎悪を押し殺し笑顔を貼り付ける。しかし男は全く意に介さず「さっさと武器を捨てて大人しくしてもらおうか。優しい日本のボス様は部下を見殺しになんて出来ねぇだろ?後ろの可愛いぼくちゃんもだ。」と相手に卑しい目を向けニッと笑う。複数の足音が近づいてくるあたり男の応援もすぐにかけつけてくるだろう。悔しいが男の言う通り自分には仲間を見捨てる選択肢がない。だが此処で大人しく従い朽ちるつもりもない。男が相手に向ける視線を遮り、じわりと額に冷や汗を滲ませながらこの後の突破口への糸口を探って。)
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