小説家 2018-10-24 19:26:17 |
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(筆を動かす手元はどこか艶めかしく、そこから紡がれる言葉を想いこくりと喉を鳴らす。自分の答えが、あの美しい世界の一欠片になるのだ。そう考えただけで踊り出したくなるような、反対にそれを抱き締めて眠りたくなるような、言いようのない歓喜に襲われる。何色にも染まらないとは、何色にも染まるということであるというのはよく言ったもので、相手の口から零れる文字は透明でありながらしっかりと色を持ち、瞼の裏に世界を広げていくようで)春を、運ぶ(最後の一文を聞いた途端にどくんと体が脈打つのを感じた。冬に向けて冷えていくばかりのこの時候に、ふんわりと暖かい風が差し込んでくるような錯覚さえ。)
――あ、先生!食事の用意ができたんでした!あぁ、お味噌汁の火を点けないでおいて正解でした。私はおかずを温め直してきますから、先生も早くいらして下さいね(数秒間、その言葉の余韻に浸っているとはたと気がついたように手を叩き。台所へ置いたままのおかず達を思い出せば慌てた様子で捲し立て、部屋を出るべく立ち上がり)
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