小説家 2018-10-24 19:26:17 |
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(筆を持つ手を止めたのは其れから程なくしてからの事、目を閉じて自分が描いていた小説の情景を瞼の裏に描き出す。如何様にもなる自分の世界を何色に染めようか。静かに考えを巡らせている内にまた此方に向かってくる足音が聞こえ、やがて襖を開ける音がして。夕餉の時間だと呼びに来たのだという事は分かりきっていたが、背筋を伸ばして瞳を閉じたまま相手が口を開くよりも先に相手に語りかけ。一切の思考が創作に向いている時だけは、その声に棘はなく静かにその質問を投げかけた。何故そんな事を聞くのか、という細かな説明はしない。ただ自分の中にある景色の一部分を何色に染めるか、ただ相手の答える色を聞いてみたいだけだった。)
──…陽子、お前さんは何色が好きかね。
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