赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>惚雨介
(夕暮れ差す茜色の森を怠惰な動きで歩くのは正にこれからディーラーとしての勤務が控えているからのようで。誰が見てもやる気のなさが伝わるような覇気の無さ、ふわあと大口を開いた呑気な欠伸を筋の浮く手の平で覆い隠して遊園地へと続く道をダラダラと歩く死体のように進んでいた。不意に視線の先に捉えたのは見覚えの無い姿、即ちアリスだと言う存在で。遠目に見かけたその服装、そして線の細い華奢な体付きと揺れる様な長い髪から女の迷子だと判断をし女ならば興味が無いと好奇心を擽られることなく変わらぬ雰囲気で行き先である彼の元に少しずつ近づいて行き。傍まで近付いた時に聞こえたのは跳ねるようなくしゃみの声で、既に見向きもしていなかった視線が再度くしゃみの主を捉えれば華奢とは言え女性のような丸みや柔らかさに欠けている事に気が付いて「あれ」と不意打ちのような間抜けた声を一つだけ零し。ぱちり、と瞬きを浅く行えば通り過ぎずに足を止めて「どうも」一度チラつかされた興味はコーヒーを零したランチョンマットのように一瞬で広がりシミを作る。にこやかで優しげな、穏やかさすら表に出した微笑みで声を掛けると「もうすぐ森は真っ暗になりますよ。真っ暗になったら慣れた人でも家に帰れなくなるから、そうなる前にお帰んなさい」貼り付けるような笑顔は薄まることなくそのままで、真っ先に口を着くのは白々しいまでの善意。真正面より見ることが出来た彼はと言えば、百点満点、欲しいと思うに至るその容姿。綺麗で、美しく、見ているだけで満たされるある種芸術品と言っても間違いではない類まれに見るだろう品位も持っていた。それに気づいた時点で彼を手放すつもりなんてほんの少しも無く、羽織るジャケットを脱げばまだ他イオンが残り暖かなそれを彼の薄い体へ掛けて「可哀想に、冷えてしまったんでしょう。体を温めるには美味しいお酒が必要だ、僕にご馳走させて」ジャケット越しの細腰へ自身の腕を這わせ、逃がさないと暗に込めるように手を添えれば都合のいい言い訳を先に残して「城のアリス?本当なら今すぐにでも案内をしてあげたいんだけど……ごめんね、これから朝まで仕事だから今晩は我慢して欲しい」帰す気なんて端から無いくせに態とらしく急いでいる振りをして腕に着く時計を一瞥、「心配しなくてもいいからね、職場は遊園地なんだ。これからの時間はキラキラに輝いて綺麗だよ」誘い込む言葉は宛ら誘拐犯のそれで、そこにほんの少しの下心も見せずににこやかと勢で押し切らんべく腰に添えた腕で導くように歩みを再開させて)
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