赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>ムカデさま
(この国の住人にも迷い子に対して親切な者、過保護な者、あるいは放任主義の者と様々なのだろうか。彼の反応が薄いことには徐々に慣れては来たが、若しかすれば己が自由に対する認識を履き違えているのではと思い留まり「ひとりでお外に出んのは、こん国ではあかん事ですやろか」何せ此処へ来てまだ一夜しか明けていない、ここで暮らすうえでの常識や暗黙の了解など知る由もなく、悩むように首を何度か左右へ傾けて。翼の彼が追々学べばいいと言っていたルール、今まさに眼前の彼から学ぶチャンスだと感付けば純粋に教えを乞いながら彼の腕を手持ち無沙汰につつき「それは二番目のなまえ、やけどいっちゃん呼ばれる回数が多いんで癖になっちまって。」この国で自分の本当の名に興味を持たれるとは思わず、予想外の驚きに嬉しそうにデレデレと頬を掻き「ほんまは惣雨介っちゅぅんです。今は"ありす"やないと許されへんから、グリフォンさまにバレたら怒られてまうかもやけど」こんな貴重な機会は二度と訪れないかもしれない、だからこそ彼にだけでも覚えていて欲しい。アリスであることは甘んじて受け入れる、せめてその代償に__そんなニュアンスも含めて図々しくもタブーであろう本名を明かして。「ムカデさまは兄やんみてぇです」自らしゃしゃり出る事はしないが、助けを求められれば誠実且つ的確に力を貸してくれる姿は、まさに頼れる存在の権化に映る。胸いっぱいの憧れに目を輝かせ「ほんまおおきに!ムカデさまがグリフォンさまん為に拵えて下さった貴重なモン、大事に持って帰ります」吹けば飛ぶような質量の小袋も、その価値を知った気でいるからにはずっしりと重く感じられる。小判なんかより何倍も価値があるであろうそれを後生大事に胸の前で握りながら「お代は如何ほどでしょか。ひなとは昨日ここへ来たばっかりで、まだなんも持っとらんのです」彼が欲しいと思うもの、代償として相応しいと思うもの。それを教えてもらえたとて今この場で支払える能力など無いが、知っておく事が重要だろう。何より突然訪ねてきた自分に良くしてくれた彼にお礼をしたい、そうしてこの縁をまだ繋いでおきたいなんて我儘も胸に忍ばせて。趣味を問うては火を使うそれが飛び出てくるなんて夢にも思わず、思わずカチリと身体が強張る。森の神様なんだから草木を破壊する火は忌み嫌うだろう、そんな先入観も彼をすぐに信用するに至る材料となっていたのだと初めて気が付く。だからこそ、自然と共存する彼が火の扱いを誤るとも思えず、ぐっと息を呑み込んで決意を固め「……ひなとは火が怖ぇ。んでも、煙草吸うとるムカデさま、いつか見てみてぇです」お礼がしたいと吐きつつも自分の要求をぶつけてばかり。今日何度目かのお願いを伝え終えてからそれを自覚し「なんやろ、ムカデさまにはいっぱい甘えたなってまう」ふにゃり唇を柔く開いて締まりのない笑みを形作り。返された問いには些か返答に窮して、微笑みに恥ずかしそうな色を宿し「分かんねぇ。"ありす"は何を楽しいと思えりゃ良ぇんでしょね」まだアリスの役職を背負って間がない自分には、ここで楽しめる事があるのかすらも不明。呼称がアリスだからこそ、"惣雨介"に投げられた質問である事には気付けずにヒントを求めて森の景色へ視線を泳がせて)
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