赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>ムカデさま
(幾度目かの呼び掛けに応答があった。苦労して宝探しの手がかりを発見したかの如く、高揚にひそやかに鼓動は高鳴り開いた瞳孔で血眼に地面を舐め回し「あぁムカデさま、ほんまに居らはった!」灯台下暗しとはまさにこの事で、よもや背後から声を掛けられているとも思わず白い手の平で遮二無二土壌を掻きむしり。と、質量のある何かが地へ置かれる物音にびくりと肩を跳ねさせ弾かれたように振り向き、背の高い彼を地に両膝をつけた状態から見上げ「____は、ぇ。」呆けたように目と口をまんまるに開くのは、そこに立つ彼もまた人間離れした神々しさを宿していたからで。普遍的な価値観では不気味と感じるはずの多腕も、彼にはそれがないとピースが完成しないと初対面なのにすんなりと得心が行き、衝撃に少し震える身体をごくりと生唾を飲む事で律して「いかにも。ひなとは…"ありす"は、ムカデさまを求めとりました」非日常な姿を前にしても、自分の立場を弁える程度の理性は保ったまま、180度身体の向きを変え、擦りむいたばかりの膝に土が刷り込まれる不快感に少しだけ眉尻を下げながらもう一人の現人神の姿を恭しく見上げ「ムカデさまが、まさかこないな美丈夫さんやとは思わへんくて。見っともねぇ姿でお目見えしてもて、えらいすんません」全身にまとう自然の香りすら神秘的なものへと昇華させる彼の前では、泥んこの己の穢れが際立つようで。それを卑屈に思うでもなく、すんなりと差異を受け入れグリフォンの彼と出会った時のようにゆったりと頭を下げ。そうして片方ずつ足を踏ん張り立ち上がれば右手に捕らえたままだった青いモルフォ蝶を差し出し「__あのう、これ。」お供物のつもりのそれは、まだ生きてやわやわともがいている。そんな蝶の姿を見て心が痛まないわけではないが、目的のためには手段を選ばない残酷さを奮い立たせ、百足の姿ではない彼が昆虫を好んで喰らうのかをハラハラしながら伺って)
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