赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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>惚雨介
(湿り気の有る土の匂いを体に纏っているのは自然の中でごろりと雑魚寝し一晩を明かしたことを示しており、寝相によりボサボサになってしまった長い三つ編みを解けば癖により中途半端なウェーブと朝露を含んだボリュームで広がってしまう髪を押さえ付けるように多腕を器用に使い意図も簡単に元通りに。日が昇り始めたばかりだからこそのより一層澄み渡る綺麗な空気を肺の中へたっぷりと溜め込み、今日の始まりを意識しなが長く長く吐き出して。行き倒れよろしくと睡眠を取った体はゴリゴリと固まっており、そんな体をほぐす為骨の軋む音を共にポキポキと簡易なストレッチを行って。さあ、暑くなる前に今日の分を収穫してしまおう。頭を切りかえて一面に広がる緑に対峙、昨日に収穫した分だろうかたっぷり膨れ上がる麻袋をひとつと、まだ殆ど膨らんでいない麻袋をひとつ、それらを両肩に乗せて朝早いからこそあまりにも静かで世界から此処だけが切り抜かれてしまったような森を歩き始めて。時折目的のキノコだったり木の実だったりを収穫しながら森を進むと静かだったはずの空間にひとの声が広がった。線のように細められる眼はそのまま開くことなく、音を追いかけるように耳を澄ませれば聞き間違いかと驚いた。ムカデ、と呼ばれている。もしも間違いで無いのならば呼ばれた名前は確かに自分のものだ。急ぎであれば手紙を使うだろうからこんな風に行き当たりばったりに探すようなことは無いはず、そうなれば緊急事態なのではと考えが落ち着き少し急ぎ足でその声を辿る。「ああ、」そうして見つけた人の背、怪我をしている訳じゃない姿にひっそりと安心を抱きながら独り言のような呟きを漏らし「どうしたの」淡々とした起伏の薄い声色で短くその背に声を掛ければ余る二本の腕が手持ち無沙汰と緩く腹部の辺りで組まさり「俺のこと呼んだでしょ」と暗に自分が彼の呼んでいたムカデであることを仄めかした返事を添えて肩に乗せていた麻袋を二つトスんと軽い音を立てて地面へ下ろし)
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