赤の女王 2018-06-06 13:39:59 |
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____手紙…か。
( 随分と古典的な事だ。数枚の封筒と便箋を指先でなぞり、小さく呟く。城内でメイド達が噂しているのを小耳にはさみ、丁度良いと譲ってもらったはいいが、いざ目の前にすると思うように浮かばないのが現実である。送り宛____”彼”は、きっと己からの手紙など受け取りたくもないだろう。如何せん正規のアリスが恨めしいと言っていたくらいだ。だからこそ、”彼”を思うなら手紙を送らない。が一番の正解なのだろうな。”彼”は、たとえお礼の手紙であってもいらないと断じるであろうし、そもそもあれは好きでやったわけでは無さそうであった。だからこそ、それでも送ろうとしているのは他でも無い己のエゴだ。ならばいっそのこと自分の書きたいように書けばいい。 )
…よし、捨てられても迷惑なんだろうと考えないことにしようか。
Hello,失敗アリス。いかがお過ごしだろうか。
聞かれるまでもなく私は元気だ。君のお陰だよ、どうもありがとう。
おや、誰だかわからないって?それはそうだろうな。そして残念、今回、この手紙では名前を明かさないことにしたんだ、他でも無い君のためにね。
おっと、失礼。この国では名前はさして重要ではないのだっけ。
ならば丁度良い。私だって数日後には忘れてしまうようなものに名を明かすほど酔狂ではないからな。
それに、君だって興味はないだろう?
ああ、ただ。君の疎む正規のアリスからの手紙であるということは間違いないと伝えておこう。
まあ、そんなことが言いたくて筆を取ったわけじゃあない。
実は先日の礼を返そうと私なりに考えてね、近日中にあの気味悪いドールハウスに訪れることにしたという報告をしようと思ったんだ。
ここでもう一つ残念なお知らせだ。
君に拒否権は無い。
安心したまえ、流石に手ぶらで訪問するなど馬鹿げたことはしない。
手土産ぐらいは持参するさ。ついでに君との”話題”も、ね。
そこでなのだが、手土産は何が欲しい?
一応リクエストは聞こうと思ってな。殊勝な事だろう?
もちろん、私に来るななどのリクエストは受けられない。犬でも覚えられる簡単なルールだ、覚えられないということは無いと思うがね。
食べ物でも、玩具でもなんでもいいさ。
ただ、薔薇はやめてくれ。あれには良い思い出がないからな。
以上と言ったところだろうか。
ちなみに、これはクイズだ。無事私を当てることが出来たならご褒美を上げようじゃないか。
まあ、君が正規のアリスから贈り物を受け取れるなら、だが。
さて、失敗アリス。ここまで読んでくれてどうもありがとう。
こんな傲慢で不遜な態度をとる正規のアリスは私だけだろう?
さあ、当ててみてくれ。
いつかの珍客より。
どう、なんだこれは…
( 半ば勢いと自棄になって書き上げたものだが、どうしようもなく己の悪い癖が惜しげもなく反映されているようにしか思えず眉を顰める。書き直そうと悩むが、この手のタイプは幾ら書き直しても埒が明かないということを過去の経験から分かっているので、ええいままよ。と勢いに任せてベルを鳴らした。すると羽根音が聞こえ、事前に開けておいた窓の淵に鞄を首にかけた鳥がとまる。随分と行儀のよい仕草に思わず感嘆すれば驚かせないようにそっと近づき、good boy,と優しく頭を撫でてから、その鞄に手紙を入れた。すぐさま飛び立とうとする姿に、宜しく頼む。と囁けば応えるように頭を一周し、去ってゆく姿を見送った。 )
___ところで、あの鳥は触れても良かったのだろうか…。
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