小説家 2018-05-27 13:15:22 |
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アメミヤ、イオリ…
( 緩やかな弧を描く彼の口元から告げられた其の名を聴き、一度復唱する。確か花街に来る客だったか同期の遊女だったか、明細に記憶に有る訳ではないものの何処かで耳にした事のある名。己の覚えている限りでは、其の名の人物は物書きであり大層人気が有るという事。貴族の豪邸にも負けず劣らずの邸、微かに薫る墨の匂い、道理でと合点がつく。浪漫溢れる時世の此の界隈で名を轟かしているであろう彼を見詰める双眸にやや驚きを浮かべるも、直ぐに元の面構えに戻し。話は途切れる事なく、今度は此方へと問いが来る。遊女時期に使用していた、所謂源氏名の様なものを反射的に言い掛けた口をはたと噤み、一度呼吸を置いてから約三年近く名乗る事のなかった本名を告げ。 )
…篁紅子と申しんす。如何様に呼んでくれても構いんせん。…以後よしなに。
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