小説家 2018-05-27 13:15:22 |
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…良かった、遠慮は要らない、好きなだけお食べ。
女衒に居たのでは、温かな食事も満足に食べられなかっただろう。
( 此処に来て初めての、相手の心からの笑顔に此方も表情を綻ばせて。きっと永らく女衒に捕らわれて居たのでは、日々の生活も幸せとは言い難いものだったのだろう、だからこそ人生を賭けて逃げ出して来たのだろうと思いながら。相手の食事を邪魔することはなく、布団の傍に腰を下ろしたまま藍に染まった庭に視線を移し。丁度牡丹の花が開き見頃を迎えている、彼女の居た世界ではきっと四季の移り変わりを知る機会も少なかった筈と不意に思えば徐に立ち上がり、縁側から下駄に足を滑り込ませ暗く、少しずつ冷んやりとして来た庭へと出て。そして一輪、蕾から花開いたばかりの鮮やかな紅牡丹を茎から手折ると其れを持って再び部屋の中へと。一輪挿しにして彼女の枕元に置くと柔らかく微笑んで )
──此の時期は、牡丹の花が綺麗に咲く。まだ花開いて間もない若い花だ、数日経って君が元気になった頃には、きっと満開になる。
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