医師 2018-04-29 11:51:43 |
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この世界は貴方や私たちのよく知る世界とよく似た別の世界。
夜の闇を電気が煌々と照らし、暑ければ空調、連絡を取るにはもちろんスマートフォンが便利な世界である。
違う点をあげるとすれば、この世界には後天性脚部癒着疾患、俗に言う"人魚病"なるものが存在する。
この病気はその名の通り、両の足がくっついてヒレと鱗が生え下半身が魚のようになる病気で、妙齢の女性のみが発症する。
この病になると水中での呼吸・会話が可能になる代わりに、水がないとたちまちに干からびて死んでしまう。
そしてこの病気が世界最悪の難病と言われる最大の理由、発症して10年後の誕生日の朝、患者は泡となって消え失せてしまうのだ____
さて、詳しい症状続いて説明して行こう、暫く黙って聞いていてくれ。
さて、ここからは便宜上患者のことは人魚と呼ばせて頂こう。
人魚は早死してしまうと君は理解した、しかしそれには例外がある。
少なからず大往生を遂げた人魚もいない訳では無いのだ。
その条件はひとつ、10年間のうちに最愛の人と結ばれること。
難しいことのように聞こえるかね?
いや、実際これはとても難しい、制度が整うまでは多くの人魚が10年で泡となって消えた。
人魚が消えた水は恐ろしい猛毒となって蒸発し周りの人間を蝕む、それもあって人魚は迫害されてきた歴史を持っている。
おっと私は歴史学者ではない、話を戻そう。
とにかく、人魚が消えてしまうことは人魚にとってはもちろん、その他の人々にとっても頭の痛い問題だった。
そこで政府はプリンス、またはプリンセスと呼ばれる人魚に1人あてがわれる世話役を生育することにした。
プリンス(プリンセス)は若く容姿端麗で成績優秀、運動神経もよければ性格も申し分ない所謂エリートの中のエリートだ。
彼らの仕事は人魚の世話もあるが、人魚を自分に惚れさせて生涯愛し抜くこと。
人はそれを仕組まれた愛だと馬鹿にし皮肉を込めて世話役をプリンス、プリンセスと呼ぶ。
そんなもの上手くいくはずがないと思ったね。
それが案外上手くいくんだ。
プリンスとプリンセスは、小さい頃から親元を離れて育てられる。
誰からも愛される毒気はないが中身もないただ綺麗で優秀なだけの人形として育てられるんだ。
初めて自分を人間扱いして頼りにし優しく扱ってくれる人魚はなにより大切な相手になるらしい。
人魚もまた、完璧に見えて寂しげな彼らに最初は母性だったり同情からでも惹かれていくようだね。
それから下衆な話をするならばプリンスとプリンセスは超高給取りだ。
脚がなくなって水槽の中でしか生活できない人魚にも政府から援助金が出るし、結構いい生活をしていると思うよ。
まあなんだ、この制度ができてから1人魚の10年での消滅率はぐっと下がり今は0に近いはずさ。
これから君が暮らしていく世界はそういう世界だ。
君が人魚なのか、はたまたプリンスなのかプリンセスなのかは私にはわからないが、悲観することは無い、人生のパートナーの決まり方がちょっと特殊だっただけさ。
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