隠れ吸血鬼 2018-03-16 19:58:38 |
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( もう終わりだ、と。素直にそう思った。 )
……いいだろう。お前に全てを見せる。絶対に、目を逸らさないでくれ
( これ以上、正体を隠すのも。怪物たる己と、善良な人間たる矢附との束の間の愛も。全ての終わりを感じながら、そっと絆火は目を閉じた。周囲の空気が張り詰めてゆくのは、決して気のせいではない。一陣の夜風が吹き荒れ、濡れたような絆火の前髪を揺らし――そして絆火は開眼する。その瞳は、闇夜に浮かび上がる、煌々と輝く赤へと変貌していた。そして、ビリビリと音を立ててジャケットが破れ、その下からは蝙蝠を彷彿とさせる一対の大きな翼が現れる。はぁ、と官能的な吐息を零せば、口の端からちらりと覗くのは、まるで毒蛇のような、鋭く長い牙。 )
醜いだろう。恐ろしい、だろう。絶対に、お前には見せたくなかった……
( 人外のバケモノそのものである姿を、愛する人の前に晒してしまった虚無感に、自嘲気味な薄い笑みすら浮かべて。ふと、死人のように白い己の手首に、鋭い牙で咬みつく。激痛から眉をしかめるが、手首を咬んでいるので呻き声は漏れず。ボタボタと地面に垂れる赤い雫を、喉を鳴らしてごくごくと飲み干してゆく。自分で自分の血を貪るその姿は、おぞましくも儚さすら感じさせて )
そう――俺は人間じゃない。吸血鬼、という概念が、人間には一番しっくりくるだろう。俺は生き血を啜らねば生きられない、化物だ。お前と出会うまでは、たくさんの人間を牙にかけ、貪り、生き延びてきた。お前と、出会ってからは……今見せた通りだ。自分の血を飲むことで、何とか飢えを誤魔化していた。だがそれは、漂流中に海水を飲むようなもの。次第に募ってゆく飢えに、俺は……とうとう一瞬理性を失い、あの新人の血を啜ろうとしてしまった。お前が止めてくれていなければ、今頃俺はこの街から姿を消さなくてはならなくなっていただろう
( 矢附の頬を伝う涙を拭ってやりたかったが、もう今の自分にその資格はない。ただただ、真実を吐露することしか出来ないのなら、せめて全ての真理を伝えようと、丁寧に今までの己の生い立ちを説明して )
今の俺は、飢えた獣と何ら変わりない。そして、俺が最も美味いと思う餌は、俺が誰より愛した人――矢附、お前なんだ。……もう、一緒には、いられないな
( 矢附を傷つけ、その血を啜って生き永らえることなんて、望むはずもなく。くるりと踵を返し、矢附から離れるように数歩歩けば、翼を使って飛び去ろうと、ゆるゆると翼を動かし始めて )
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