隠れ吸血鬼 2018-03-16 19:58:38 |
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――――がっかりだ。
( 捲し立てるような矢附の言葉や主張を全て静聴し終え、深い悲しみと共に呟くように一言だけ呟く。勿論、今回のこの騒動、火種を撒いてしまったのが自分だということは重々承知している。自分が新人に書類を手渡していなければ、新人がうっかり指を切っていなければ、自分が本能を理性で完璧に押し殺すことが出来ていれば。こんなことには、ならなかったのに )
お前は、俺を……浮気や夜遊びに興じる軽い男だと思っていたんだな
( 表情に宿っているのは、怒りでも自嘲でもない、ただただ深海のように昏い悲哀。こんな形で矢附の“本音”を聞くことになるなんて、思ってもみなかった。まるで、自分が矢附に注ぐ愛情が、いもしない不特定多数の愛人に向けるそれと同等だ、と言われてしまったように感じて )
俺は……。お前が、俺なしでは生きていられないと思っていた。俺が愛でるのは、この世でお前ただ一人だけでないと、死んでしまうくらいに。でも……違ったんだな。それは俺の、思い上がりだったというわけだ
( 知らず知らずのうちに、眉間に深い溝が刻まれてゆく。自分が持っているたった一つの心、その心全てを独占するのは、矢附しかいないというのに。そのことが分かってもらえないことも、きちんと愛を伝えきれなかった自分の不甲斐なさにも、ただただ虚無感が募って )
……一つだけ答えろ。いいか、俺が愛するのも、興味があるのも、一生傍にいて欲しいと思うのも。この世でたった一人だけだ。お前は、その一人が一体誰なのか知っているはずだ。答えろ、それは誰だ?
( 悲しみを振り払い、真剣な瞳でまっすぐに矢附を見つめる。もし、矢附がこの問いに答えられなければ。その時はもう、終わりだろう。だってそれは、今まで自分が矢附に注いできた愛を、すべて否定されることに他ならないのだから。どこか覚悟を決めたような、戦争に向かう尖兵のような雰囲気すらまとい、矢附の答えを待って )
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