赤の女王 2018-03-04 13:31:36 |
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(庭へ向かいながら、チラリと横目で相手のようすを窺う。さっきのは、きっと痛かっただろう。まだじわじわと痺れる自分の手のひらが、相手の頬の痛みをほんの少し教えてくれるようだった。胸の中でモヤモヤと渦巻く気持ちが拭いきれなくて、せっかくのお茶会もこれでは素直に楽しめないだろう。そんなことを考えていると視界が明るくなるのを感じて、いつのまにか俯いていた顔をあげ。「わ……ぁ。本当にパーティ会場みたい」大きなテーブルもたくさんの椅子も、その上に乗っているお菓子たちも、すっかりその場に馴染んでいるようにそこにある。そんな光景はこれまで見たことがなくて、つい感嘆の声を漏らし。好きなところへ、と言われれば相手の隣、先程叩いてしまった頬の側へ腰を下ろして、化粧品を入れた帽子は膝の上へ。慣れたように紅茶を淹れる相手の姿をじっと見つめていると、差し出されたカップの中身は柔らかな白色。甘い砂糖とミルクの香りのなかに、ふんわりと紅茶が漂う。カップを持ち上げる相手を真似るように自分のカップを掲げてから、その優しい言葉にまた涙が浮かびそうになる。「アンタって本当にのんきね。ひっぱたかれたんだから、ちょっとくらい怒りなさいよ」本当に言いたいのはそんなことではないのに、口から出てくるのはこんな言葉ばかり。美味しそうなお菓子が目の前にあるのに、手を伸ばすことができず、両手でしっかりとカップを包み込みひと口啜る。口のなかに広がる甘味がやさしくて、まるで作り主のようだ、と思う。さっきのことだって自分を心配してのこと。思えば、この相手には出会ったときから心配をかけてばかりだなと考えがいきつけば「……ありがと、」と、聞こえるか聞こえないか、ほんの小さな声で礼を述べ、口元をカップで隠すようにしながら相手を見つめ)
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