赤の女王 2018-03-04 13:31:36 |
通報 |
(回りくどい言葉で貶され、果てには鼻で笑われる始末。目の前のマカロンをその口へ突っ込んでしまいたくなったけれど、それを止めてくれる眠り鼠や帽子屋はここに居ない。ぐ、と拳を握りそれを留めると、「アンタの誕生日にはインコでもあげるわよ。自分の口から出てくる言葉がどんなにお美しいか気がついてないみたいだから」べぇ、と舌を出して見せてから、差し出されたスケッチブックにキョトンと目を丸くする。「これ、アンタが描いたの? 筆はこんなに正直なのにねぇ」そこに残されていたお茶会の絵はありのままが描かれていて、黒で丁寧に色付けされた濃淡からはそれをよく観察しているということが分かる。暫くそこから見える景色とスケッチブックの絵を見比べてから、ぺらりと一枚捲ってまっさらなページを開く。転がってきた鉛筆を持ち、何を描くかを考え込むように鉛筆の先を顎に当て。絵なんて描いたのは幼い頃の授業以来だ。その時だって、絵の上手いクラスメイトにほとんど手伝わせたような記憶がある。暫くそうしてからようやく筆を動かし描き始めたのは、先日行った遊園地で見かけた、くるくる回るコーヒーカップを一つ。中に入っていた、 アリス と呼ばれる他の少年少女たちが、楽しそうに目を輝かせていたのが印象的だった。曲線はガタガタとミミズが這うように揺れ、奥行きも影もない平面のカップ。その中に描いた人の絵も丸に棒を生やしたようなものだったけれど、表情はにっこりと笑顔にするのを忘れない。「ちょっと、色鉛筆とかないの? これじゃ味気ないわ」ごく短い時間でさっくりと描いた一つの絵。ほとんど初めてにしては良いじゃないの、と自身の贔屓目で見て満足げに頷いてから、トントン、と指で絵を叩きながら相手へ問い掛けて)
トピック検索 |