2018-02-07 10:55:22 |
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まだ冬だと言うのに春の様に暖かく陽射しが強い。髪を靡く風はまだどこか少し冷たいけれど、段々と春に近付いているのが分かる。
そんな麗らかな日に目の前には今にも飛び降り自殺をしようとしている人が居た。ビルの屋上で落下防止用のフェンスを乗り越えて雲一つない青空を見上げている。何時も一人此処で昼食を食べていた俺は屋上の重たい扉を開けて、見知らぬその人と初めて出逢う。
そして、その瞬間に出逢いが終わろうとしている事にも気付いていたが、何と声を掛けたら良いのか分からない。下手に喋って飛び降りでもされたら今後この場所で昼食も食べられない、食べられたとしても必ず相手の事を思い出すだろうと思っていたからで、暫し無言の状況が続いた。
やっぱり本当にする気なのだろうか、そしたら此方の気分が悪い。そう思って勇気を出し
『 あの、此処で飛び降りるの辞めて貰えますか?迷惑なので。 』と、声を掛けた。
ゆっくりと振り向く相手の顔を初めて見た時、一瞬だけ胸がドキッと高鳴った。冷たく落ち着いた雰囲気はこれから飛び降りる覚悟が出来ているからなのだろうか、とても冷静で少し反応が遅れてから言葉が返って来て。
「 嗚呼、すみません。お構いなく。 」
いやいや、お構いなくと言われてもこの状況で無視しろなんて出来る訳がない。目の前で自殺なんて。と、思っていると相手はフェンスに手を掛け半身を投げ出す。
『 ちょ、待って - 』
「 え? 」
俺はコンビニで買ったメロンパンと珈琲牛乳が入った袋を落とし、無我夢中で走っていた。ビルの先まではそこまで遠くない。けれど、走っている時間はとてつもなく長く感じて相手の手を掴む頃には息を切らしていた。
日に照らされた肌は白く、硝子の様に透き通った瞳が俺を見つめる。戸惑った相手は空いている片方の手を上に指さして
「 あの、空を見ていただけなんですけど.. 」
なんて、俺の勘違いだった様で頬を赤く染まって行くのが自分でも分かる。その様子を見た相手はクスッと笑い、それからというもの昼食は二人で食べる様になった。
麗らかな日々。 / 終
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