⦿ 2018-02-04 01:00:11 |
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……グレン・ミラーか。基地でもよく流している奴がいたな。確か彼も今は空軍に徴兵されて……、楽団を率いてイギリスにも来ていた筈だ。機銃を撃つ代わりにトランペットを吹くのさ。公演数がそのまま撃墜スコアに。僕より階級は上だし、彼ならもっと良い車とラジオを持ってるよ。
( ざらざらと耳障りな雑音が続いた後、最初に流れてきたのは国が戦争に入る前ダンスホールでよく流れていた少し懐かしい曲だった。多くの国民に愛される有名な歌手の代表的なナンバー。無難にその曲に決めるのだろうと思えば、しかし彼女はどこか焦った様子でダイヤルを回し続けて局を更に進めてしまった。あの歌が嫌いなのだろうか、それとも…──彼女の態度から明らかな動揺のようなものを感じてしまった為になんとなく心に引っかかるものがあったが、自分が一生懸命考えたところで思い当たる節など無いのだから仕方がない。無神経にそれに触れては当然相手も嫌がるだろうから敢えて気づかないふりを。既にラジオは次の周波をキャッチして、スピーカーからは別の曲が流れ出していた。ラジオでは聴き飽きるほど頻繁に流されるアメリカで一番人気のバンドの曲だったが、やはり先程の彼女の態度が気になってか音楽に聴き入ることもできず、車内の雰囲気に少しぎこちなさを感じたため、意味も何も無いバンドの話と冗談で間を持たせる。信号を五つ過ぎる間に曲は“Chattanooga Choo Choo”から“Moonlight Serenade”へ切り替わり、ロンドン中心部へ近づくにつれ往来を行き交う車も人も増えてきた。ヒリンドン区を出てからハーロウ区、ブレント区を通ってきた車は愈々カムデン区を抜けようとするところで、あと2、3曲も流れるうちにバーツへ着いてしまうだろう。勿体無い気もするが、彼女にはこの後も仕事があるのだからしっかり送り届けてやらなければならない。ちゃんとしたデートへ誘うのは次の機会に。赤へ変わる信号の灯火に従い速度を落としつつ、信号機の側に掛けられた“Smithfield”と表記のある交通標識を指さして )
もう少しでスミスフィールドに入るよ。
病院に着いたら面会をお願いしても?ロディ…ああ、201号室の同僚と、それから中尉にも可能なら一度会っておきたい。
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