⦿ 2018-02-04 01:00:11 |
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( 相手を助手席に乗せて運転席へと戻ったあと、すぐに車のエンジンを起動させ、アクセルペダルを倒してゆっくりと車を前進させる。目線はフロントガラスの向こうに真っ直ぐ伸びる二車線道路へ投げたまま、彼女が話してくれるモンロー中尉の情報に耳を傾け、説明が全て終えられると浅く溜息をひとつ吐き落として。直接会話したことさえない中尉のことはその顔すらおぼろげにしか思い出せないが、飛び方だけはよく覚えている。ノーソルトへ移動になって以来一度だけ共に出撃したことがあったが、仲間が敵に後ろを取られそうになれば迷わず自分が代わりに囮になるよう働いていたし、とにかく操縦の腕が良いぶん自分の命を顧みずに無理をする人だという印象を受けた。“仲間を庇ったのだろう”という先程の彼女の推測は正しいだろう。あの人であれば咄嗟にそういう行動を取ったはずだ。視線を右隣の彼女の方へ移すと一瞬だけ絡まったそれはすぐにほつれ、少しの沈黙の後に言葉を続けながら伏せられたグリーンの瞳の上で睫毛が小刻みに震えているのを見てしまえば、膝の上で重ねられた白い手を強く握ってしまいたくなるのをぐっと抑えて )
……すぐに終わらせるさ。中尉の怪我が治る頃には、君とパリへ観光にだって行けるかもしれない。向こうで君に似会う服を買ってあげるよ。生粋のパリジェンヌも君の美しさにはびっくりするだろうね。
( 視線を前へ戻したあと、手を握る代わりに少しでも慰めになればとできるだけ明るく言ってみせたつもりが、これは失敗だったかもしれない。彼女はこういうことを軽々しく言うのは嫌がるはずだった。それに民間人であるとはいえ長く病院に務める彼女は自分たち軍人以上に目の前で死んでいく人間を数多く見てきたに違いないのだから、抱える想いもそれ相応のものなのだ。もう少し気の利いたことを言えないのか、と自身を叱咤しながら落ち着きなくハンドルを握り直し、なんとか話題を変えようと頭を捻り )
そういえば、今朝は一度バーツへ行ったんだよ。君とお茶に行く約束していただろ?君に会えると思ってはりきってたのにさ、ドイツさんに邪魔されちゃったな。
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