匿名書生 2018-01-24 19:13:27 |
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( 彼が本当に嬉しそうに、そしてどこか差し迫った様子で本当かと問うので、うんと頷くと少々楽しげに彼を観察して。冷たい空気を凛と震わせる声は耳に心地よく、チョコレイト色の瞳の揺らぎは自ずと視線を引き寄せ、実に観察のしがいがあった。どうやら彼はロマンチストの気質があるようだがそれは元来の溌剌とした明るい性格が由来なのだろう。しかしここまで彼を導いたのはそれとは異なる、より深遠で孤独な何かなのではないだろうか? そして、おそらく自分はそれを愛おしく思い始めているのだ。……と、その時彼が家を捨てた方も当然であるような事を言ったのを聞くと目を丸くして )
それはいけないなぁ。君の親族が捜索願を警察に出してごらんなさい。僕は誘拐罪で逮捕だろう。いずれ落ち着いたら文をだしなさいね。
( 彼がなるべく恥じたり苦悩しないようにと冗談めかして上記を述べれば、ふと彼をそこまで追い詰めるものの正体は何であるのかと疑問に思う。彼はただならぬ何かを抱えているようだが、その本当の正体は未だ見えぬままであった。いずれ告白してくれる時が来るのだろうか。)
…ああ、うん。それは熱心なことだね。それではお願いしても良いですか。僕は一寸煙草屋へ行ってくるよ。もう少しで無くなりそうだから。
( 彼の提案の心も知らぬままに立ち上がりながらそう言うと、道中くわえ煙草をしながらのんびり行こうというつもりで腕を組むように袂に手を突っ込み手探りでマッチと煙草を探して。 それでは頼むよ、と部屋を出て玄関口へ続く廊下をのんびりとした調子で歩いていたが、急にはたと立ち止まると慌てた様子の足音をさせながら部屋へ戻り )
…! 忘れてた…。見たかい?
( まだ火のついていない少々湿気った煙草を咥えたまま慌てて戻ったのは、原稿の束の傍に放っておいたノートブックのためだった。構想を書き連ねるためのノートだが大谷は煮詰まるとよく軒先を通る猫やら庭の枝で羽を休める雀やらをスケッチするのが癖であった。開いたままにしていたページにも丁度それらの落書きが例外なく無造作に描かれていて、極めて私的なそれらを見られたかと思えば僅かに恥ずかしそうに肩を落として相手の様子を伺って。 )
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