匿名書生 2018-01-24 19:13:27 |
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生の総てか…君のその確信を受け止めてよい程僕は立派な人間ではないんだがね。僕は悪い大人ですから。
( 深くは話さなかったが、虚言ではなかった。彼のチョコレイトのような、光を宿す綺麗な瞳が此方を見据えると、困ったように低い声でそう呟いて。しかし本当の自分を見せたのはこの一言だけで、目を細めて静かに微笑めば己の暗い部分を隠して相手の方を見る。今までに幾度となく繰り返して来たように。そして、この澄み渡った青空のような心の青年が穢れてしまわないように。第一穢れる前に彼は自分に失望して去って行くに違いないが…しかし本当は其れを望んでいる。そうでなければこんな提案は出来なかっただろう。 )
君が確信を持ってここへ来たのならば、君の納得がゆくまで僕は応える他あるまい。この家は幾分僕一人には広すぎてね…一つ部屋が空いて居るから自由に使って頂いて構いませんよ。君の手紙にあったように“手伝い”と言っても僕は身の回りの事は大体何でも出来てしまうから…、だけど編集部の輩とのやり取りは苦手だ。もし住み込んでくれるのならば君には来客の対応や雑用をお願いしたい。
とはいえ君にも事情や今までの生活があるだろうから、住みこまずとも時々遊びに来る程度でも構わないよ。何にせよ君はいつでもここへ来て良いんだ。好きにしてくれ。
( 近頃の作家は書生を抱える事も多いので当然の流れであった。これまでの私生活を振り返ってみれば親しくなる人々は入れ替わり立ち代わりで、長くともその付き合いは一年も続かないものであった。 彼との関係も何かしらのリミットを予感してはいたが、それはこれまでのものとは違うような気がしていて。 )
…笑ったり、嫌いになったりなんてしないさ。僕は運命を信じた経験は無いが、もしかするとこれがそうなのかもしれないと思うんだ。
( 低く囁くような声でそう言えば、彼の肩から見て取れる緊張感から相手の心を想像し、彼がここへ来たことを後悔して居なければ良いのだがと思いながら。)
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