物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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外に出ると、よく晴れた夜空には月が浮かんでいる。その明かりが作り出すぼんやりとした薄闇の中で、存在感を放つのは、今はもう使われていない廃工場たちの真っ黒な輪郭ばかりであった。
辺りはまた静寂を取り戻しており、ここから先の湿った地面は足音も幾らか吸収してくれる。いつどこに敵となる人物が潜んでいるか分からないため、ルードは常に気を張り詰めていたが、素早く運ぶその歩みに迷いはなく「脇目も振らない」という形容がぴったりと当て嵌まるようであった。
━━にしても……。
歩きながら、ふとルードの脳裏にさっきまでの光景が蘇った。自嘲的な声色、雷火によって一瞬、浮かび上がった表情。
━━…………。
涙は出ないけれど、苦しいという言葉だけでは言い表せない、自制を緩めれば暴れ出してしまいそうな感情が、心にはあった。
━━笑っていやがった。最後にあの男が言いかけたのは、あの女のことだけだった。
こんな状況で、自分はまだ何かを期待していたのだろうか。
━━だから、もう聞きたいこともないと言ったのに。
その前に、疑問形で語りかけてしまったのは自分だったか。一抹の後悔が棘となって胸に刺さる。しかし、ごっこ遊びは誰かが下りたら終わるのだ。残った者が無理に続けようとしても滑稽になるだけである。だから、自分も下りたのだ。あとは、
━━全てを終わらせるだけだ。
無骨に佇む錆びたフェンスを乗り越えて、ルードは廃工場の建ち並ぶ敷地を抜け出した。
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