物草 惣兵衛 2017-11-14 04:24:08 ID:c196a580b |
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追跡者はそこで立ち止まった。ほとんど黒に見えるぐらい濃いグレーのボーラーハットの下で、その持ち主の口元が歪む。
「オレたちは?」
トーンは低くても、その声はどこか楽しげであった。逃げ場を失った獲物に詰め寄る補食者の余裕。確固たる決意に基づいた殺意。追跡者が今、纏っているのはそういった果てしなく冷酷な雰囲気であった。思わず、倒れている男も荒く紡いでいた息を詰まらせる。
「その『オレたち』ってのは、誰と誰だい? 俺やエリゼ、フィリベールなんかも含まれていたのか?」
追跡者は男に一歩、近づき、冷淡な口調で問うた。月明かりは尚も辺りの粉塵や壊れたマネキンたちに注いでいるが、追跡者の瞳はボーラーハットの鍔が落とす影に隠され、男には視認できない。ただ、声のトーンから判断しても、互いの立ち位置を考えても、見下ろされていることは確かに思えた。
「いや…ちがっ、違うんだ!ルード!聞いてくれよ!!」
「お前の口から聞きたいことももうない!」
彼等が訪れるまでは、長く静寂に包まれていた廃工場の一角に、初めて荒げられた追跡者の声が響く。続いて、その手が持つリボルバーの先端が、喘ぐような調子で弁解を試みた男に向けられた。
「家族ごっこも終わりだね…さようなら、父さん…!」
━━こんなはずじゃなかった…。
言葉にならない思いはただ胸の中に、男は追跡者の指がリボルバーの引き金にかかる様を、恐怖に引き攣った表情で凝視することしかできなかった。
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