2017-11-11 22:06:57 |
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( 人々は足早に通りを抜けていく、夜が近付いて来た事を悟るには充分過ぎる足音にちらりと空を見上げた。先程まで空を染め上げていた赤色が随分と消えて、もう既に深い青が空を覆い始めている。今日はもう此処までかな、と小さく独りごちた後に面へと出していた多くの花を店の中に仕舞い始め。今日は多くの花が誰かの手元へと渡って行った日だった。その花を買う人が全て笑顔だった訳では無いけれど、少なからず大切そうに花を受け取ったその掌に安心と喜びを拭い去れない。今日は、良い日だった。鼻歌でも歌い出したい気分の侭、店前を通る近所の方と挨拶を交わす。
幾分、そうしていたか。すっかり落ちきった夜の帳を尻目に夕餉は何にしようかと思案。不意に耳に届いた微かな物音に振り向いて、驚愕を禁じ得なかった。左腕を抑えた青年が此方へ緩慢な動作で近付いて、真っ直ぐに此方を見詰めた。床に垂れる赤い雫と微かに香る鉄の香りに酷く複雑な表情を浮かべ乍、青年に声を掛けようとした刹那、思いも寄らぬ言葉が青年の唇から溢れでた。まるで捨て犬の様な青年がゆるりと口角を上げて微笑んだのを見た瞬間に、考えるより先に答えが口から溢れていた )
私の元でも良いなら、御出で。
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