悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
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(湯浴みも終わり新しい着物に着替えて、すっかり体はポカポカと暖かいのに心だけはどこかモヤがかかっているようにスッキリとしない。あんな事を言ったら彼が困るだけなのに。鈴はまだぽたりと雫が垂れてくる漆黒の髪を手ぬぐいで軽くぽん、と拭いたあとに彼がいるであろう縁側へと向かい。すらりと襖を静かに開けて縁側に出たものの、縁側にはふわりと湯気の立った湯呑みが置いてあるだけで彼の姿がいないことに気づき「……碧、?」と不安げな声で名前を呼び。まだ静かに振り続ける雨音を耳に流しながあたりを見回したものの傘は置いてあるままで、まるで神隠しにあってしまったかのようにその場にいない彼を目線で探しては不安げに眉を下げて。)
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