ものぐさ物書き 2017-08-17 15:58:19 ID:01bed38fc |
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まあ、そんなこんなで年が明けた。
あの国じゃあ年越しのとき、寺という寺で鐘をつくのさ。
百八つの悪い心を捨て去って、新しい年を迎えるってことらしい。
オレやゴローたちは、郵便局で百八つの鐘を聞いた。
大きな機械があって、それが郵便番号を自動的に読むらしくて、人間様の手間はそんなにゃあかからねえんだが、それでも機械なんてのは読み漏れがたんとある。それを手で分けていくわけさ。
もっともオレたちガイ人は漢字がわからねえから、ただの雑用だったがな。
明るくなって、えらい人の挨拶が済んで、いよいよオレたちの仕事の本番だ。
オレはゴローにくっついて、担当区域に飛び出していった。
あの朝の、シンジュクの街の景色だけは、なぜだかいまでも思い出すよ。
雪が降ってたんだ。
そのせいだろうな、なんだかやけに清潔で、とにかくいつもとは違ってた。
空気がしんと冷えていて、排気ガスも少ねえのか、えらく遠くまではっきり見えて、肺の中も頭ん中も綺麗になったような気がしたぜ。
笑い事じゃねえんだ。
信じねえだろうが、あの街じゃ普段は遠くは霞んじまってるのさ。
昼近くだったかな。
一息入れるつもりで、オレたちゃ缶コーヒーを買った。
うまかったな。
手も舌も焼けるような気がしながら飲んでると、珍しく遠慮した調子でゴローが言ったんだ。
「なあ、おめえ、これをどう思う?」
そして制服のポケットから、年賀状を一枚抜き出したんだ。
―――世界は冬に終わる
そこにはそう書いてあった。
ああ、いまでもよく憶えてるよ。
オレにゃあきちんと読めなかったんで、ゴローが読んで聞かせたくれたのさ。
はっきりと、憶えてる。
こんな二行だったよ。
世界は冬に終わる
そんな気がしていました
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