ものぐさ物書き 2017-08-17 15:58:19 ID:01bed38fc |
通報 |
――――あの年のはじめ…。
オレは雪の中で自転車を漕いで、せっせとニューイヤーズ・カードを配ってまわってたんだ。
ポスト・マン。あの国じゃ「郵便屋さん」と呼ばれてた。
仕事を転々としたあとに、前の年の暮れから臨時のアルバイトとして雇われたんだ。臨時雇いだったから、この先どうなるものやら不安でならなかったけれど、とりあえず背に腹は変えられねえってところだった。
皿洗いにはじまって、建設現場や土木工事や、いろんな仕事をしたものさ。
学生ビザで入国したはいいが、オレの目的は、あくまで決まった額の入金をすることにあったからな。なにしろあん時、お袋の腹ん中にゃあ末っ子のおまえがいたんだぜ。親父はあんな男だったから、長男のオレがなんとかしなくちゃならなかったってわけだ。
大変だったかって?あったりめえよ。
毎日毎日寝ずに働いたって、アパート代や食費代がバカ高いから、金はすぐに右から左に消えちまう。
信じられねえかもしれねえが、この町でちょっとした家屋敷を借りられるだけの金が、あの国じゃあほんの数日分の食費に消えちまったんだ。
だけどあの国の女どもは、オレたちのひと月分の給金ぐらいの服をぽんとカードで買っちまうし、野郎どもは野郎どもで、そんな女たちとの食事やホテル代に大金を投げ出す。
特に金持ちってわけじゃなくたって、そういう贅沢はできる国なんだな。
「ちきしょう、あんな女たちとやりてえな」
郵便バイクを走らせながら、ゴローはよくそう言ってた。
オレだって同じ気持ちだった。
綺麗に着飾った女は街に溢れてたのに、みんながどっか遠くにいて、見ることはできたって触ることも話しかけることすらできやしねえ。
おっと、前置きが長くなっちまった。
今夜はゴローとあの女の話を聞かせてやるよ。
まあ、いいからしばらく黙って聞けって。これがおまえの相談に対する兄(アン)ちゃんの答えになるかどうかはわからねえがな。
その前にビールをもう一本持ってこいよ。
こう暑くっちゃかなわねえや。
トピック検索 |